中小企業のWebマーケティングへの取り組みと実態
日本企業の多くは中小企業と言われます。実際に総務庁によるとその数は430万を超え、割合で言えば99%以上だそうです。
しかし世の中に存在するデジタルマーケティングの情報は、そのほとんどが大企業向けではないでしょうか。
そして、残念なことに大規模向けの手法や事例を参考に中小企業が真似をして自社のデジタルマーケティングに取り組み失敗している事例を多数見ます。
チャレンジすることは良いことですが、さらなる失敗は「自分たちには絶対無理、不相応だ」と諦めてしまうことかもしれません。
今回は中小企業向けのデジタルマーケティングの情報を紹介しながら、実務への参考にしてもらえる内容をお伝えいたします。
中小企業のWebマーケティングの実態を知る
まずは自分たちの実態を知ることから始めましょう。
中小企業を対象にした数少ない調査データの一つ、@nifty WEB販促の窓口による「中小企業のWEB活用に関するアンケート調査」(2015年11月実施)を中心に探っていきましょう。
出典:中小企業のWEB活用に関するアンケート調査:@nifty WEB販促の窓口(ニフティ株式会社)
なおこの調査が前提としている中小企業とは、従業員規模100名以下の会社となっています。また調査対象者はこうした中小企業に属する経営者、Web担当者それぞれ150名です。なおWEB販促とは、広告出稿やECなどWEBに関わるすべての販促活動を含めたものという事なので、業種業界を問わず幅広くデジタルマーケティング全般の取り組みと考えて良さそうです。
Q1の「あなたの会社では、Web販促を実施していますか」という問いに対して、「Webによる販促を実施していない」と回答した企業が約半分になります。
これだけデジタル化が進んでいる昨今、少し意外な結果に思えます。
しかし、冷静に考えてみましょう。この調査はWEB販促についてであって、Webの利用やサイトの保有ではありません。意外と思うのは、Webサイトの保有とイメージを重ねているからかもしれません。そこで、実際のWebサイトの開設状況を見てみましょう。
出典:平成27年版情報通信白書 特集テーマ 「ICTの過去・現在・未来」企業ホームページの普及(総務省)
総務省の調査によると、85.6%の企業がWebサイトを開設しています。
しかもこれは2005年のデータです。CMSの普及などが急激に進み、手軽にWebサイトを持てるようになったのはこの後ですから、現在はもっと多くの企業がWebサイトを開設しているはずです。
企業規模や形態によってはWebサイトを全く必要としない場合もあるでしょうから、100%ではないながらも今やすべての企業が、まさに名刺代わりのようにWebサイトを持っていると考えても良いでしょう。
しかしWebでの販促という調査結果に返ると、それが大きく減少して、半分にまで落ち込みます。「Webサイトは持っているが、販促利用はしていない」という状況です。これを前提に、次の調査結果を見ていきましょう。
Q2は「Webを販促として活用できていると思うか」という質問を、経営者に対して行ったものです。
一番の注目は、34.7%の経営者が、「活用したいと思っているが活用できていない」と回答している点です。ここから次の事が見えてきます。
- Webサイトは作ったけれど、どう活用すれば良いかわからない。
- Webで売上が上がるというけれど、自社ではまったくそういった実感はないし、やり方も分からない。
1については、さらに様々な問題が広がっていきます。名刺代わりとなるWebサイトをクローズさせる事は無いと思いますが、次のような状況に陥っている企業は多く見られます。
- 情報を滅多に更新しない。
- 作ったままで放置されている。
- 売上に貢献しないのに維持管理などの費用はかかるため、どんどん縮小されていく。
- 経費だけかかる、金食い虫のように見られている。
思い当たる方も多いのではないでしょうか。
中小企業のWebマーケティングの課題
さらに細かな問題点を見ていきましょう。
Webサイトが売上に貢献できていないのだから、そこに人件費はかけないというのが自然な判断です。ところが実際の企業では、そうした動きにならず、Web担当者が置かれているケースがあります。売上に貢献できないのに人件費がかかっているので、次のような問題が起こります。
- 企業側(経営者側)から見ると、Webサイトの維持管理にお金がかかるのに加え、担当の人件費もかかる。
- 他部署から見ると、会社に大きな貢献をしていないように見える。
- Web担当者側から見ると、会社から十分な予算や設備を用意してもらえない、評価が無いという不満が溜まっていく。
それぞれの視点で問題を抱えますが、特にWeb担当者はネガティブな影響を一身に受ける事になります。その結果やりがいを無くしてしまったり、転職を考えるようになっていきます。
また意外と重要なのが他部署との関係です。Webサイトは経営者だけでなく多くの部署との連携が必要ですから、そこに軽く見られると、現場レベルでも非常にやりにくくなってしまいます。
デジタルマーケティングを重視した他部署との関わりで、筆者が特に影響が大きいと感じるのは、営業との連係です。特に最近はBtoB領域でのインバウンドマーケティングやコンテンツマーケティング、マーケティングオートメーションを導入しての取り組みが話題となっていますが、これらは営業との連携が取れていないとうまくいきません。
しかしここまで見てきたように、Webサイトを単なる名刺代わりに持っている、あるいは販促には全く使われていないという事であれば、営業サイドは時間を割いてWeb担当者と関わろうとはしないものです。
改善の意思がある中小企業の多くは、こうした部分も含めて新たに人を採用する事で解決しようとします。つまり新たなマーケティング担当者がすべてを解決してくれると思うのですが、そんなスーパーな人材は滅多にいません。たとえいたとしても相当な給料を払う必要があるでしょう。結果、新たな担当者も早々にやる気を無くしてしまい、負のスパイラルへと陥っていくのです。
中小企業と大企業のWebマーケティング比較
さて次に大企業と比較しての中小企業の取り組みを考えていきたいと思います。
参考になるアンケートの設問がありますので、まずはそれを見てみましょう。
Q4で「中小企業がWeb販促を行う上での悩み」が聞かれています。
「予算がない」「成果がわからない」「何をしたらよいかがわからない」が、トップ3となっています。1番の「予算がない」ですが、同じような設問をした場合、大企業も同じ悩みがトップに来るはずです。
よく中小企業の経営者やWeb担当者から「うちは大企業じゃないから、予算はかけられない」と聞きますが、大企業も同じ言葉を口にします。もちろん具体的な額は桁が一つ二つ違うのですが、今の時代に販促費を湯水のように使える企業は、なかなか存在しません。
例えば某大手企業は、少し前まではテレビCMを山のように出していましたが、そこを削ってデジタルマーケティングにシフトさせました。大企業も限られた予算の中でやりくりをしていますので、予算不足は常に頭を悩ませているのです。
二番目の「成果がわからない」も同じです。大企業も中小企業も、目標を突き詰めていくと利益確保と売上向上、顧客満足向上ですから、成果をいかに測っていくか、どう見える化していくかは重要な問題になっていきます。
三番目の「何をしたらよいかがわからない」は、少し大企業と差が出る点かもしれません。大企業はWebやデジタルマーケティングの部署でスタッフが複数いる場合があり、そこで情報共有ができます。また複数の外部パートナーに意見を求める事もできます。
それを考えると中小企業は不利な面も否めません。SEOやリスティングといった特定の手法を提供する所ではなく、なるべく自社のマーケティング戦略全般に携われるパートナー選びをする方が良いかもしれません。
中小企業のWebマーケティングの解決法を探る
ここまで中小企業のデジタルマーケティングの現状、そこから見えてくる問題点をご説明しました。それでは具体的な解決方法について考えていきましょう。
Web担当という枠に留まらない。
デジタルマーケティングに取り組んでいくためには、Web担当者という形ではもはや役不足となっています。組織全体でWebをどう位置づけるか。全体の戦略をどう練っていくか。時として他部署とのハブ役になっていく必要があります。
最低限の予算は確保する
流行りのオウンドメディアなどでも「サイトの制作費用は通るけど、集客費用は出してもらえない」という声をよく聞きます。
既存顧客だけに向けたオウンドメディアなど特別な戦略がある場合を除いて、サイトに集客するための予算は、特に最初は必要になります。最近はSEOもサイトの内部だけでなくトラフィックも影響していますので、広告や記事投稿などで一定数のアクセスを稼ぐのは必要不可欠です。こうした部分をきちんと説明して、最低限の販促予算は確保するようにしましょう。
成果を積み上げ、プレゼンしていく
ここまで挙げた二つの取り組みについて「分かっているけど通らないんだ」という怒りや嘆きの声が聞かれるのは当然です。これらが通るようにするために、日々の取り組みをしっかり行い、成果を出していく必要があります。
また成果は自然と上がったのではなく、担当者がきちんと取り組んだ結果だと、戦略やプロセスを社内にプレゼンする必要もあります。
例えばある大手飲食チェーンのWeb担当者は、Webでの販促クーポン配布と店舗集客の実績に加え、ヒートマップでサイト内での動きを可視化して、どういった戦略で動いたから成果がプラスになったかを、見える化して社内にプレゼンをしているそうです。
それもこれも「社内でWebやその担当者があまりにも低く見られているため」の取り組みで、プレゼンを繰り返すことでようやく最近マシになってきた、と言います。
見える化基盤を整える
社長や経営を説得するためには活動の見える化を行うことが重要です。経営者はいくら投資して、いくら回収できたかだけを知りたいものです。そのROIにマーケティングが集中することで、経営者からの信頼を獲得できますし、自身のやる気もでてくるはずです。まずはマーケティングオートメーションツールなどを導入し見える化するための基盤を整えることが先決です。
まとめ
中小企業のデジタルマーケティングというテーマで見てきましたが、中小企業も大企業も悩みの本質は同じです。
- 予算がない
- リソース(人員)が足りない
- 成果が分からない
これらは中小企業も大企業も共通した悩みで、違いはレベル感です。例えば中小企業の場合はリスティング広告の予算30万を確保したくて動くのが、大企業の場合は300万円、場合によっては1,000万の予算となる、といった違いです。
こうした悩みを解決するのに必要なのは「社内の理解」と「組織づくり」です。これは相互補完の関係で、社内理解が進めば組織づくりも進めてもらいやすくなります。また組織が作られていけば成果も上がっていき、社内理解も一層進んでいきます。
Webやデジタルマーケティングという枠組みを超えた動きになりますが、こうした部分にまで関わっていかないと、成果は出しづらくなっています。
大変な取り組みですが、中小企業の場合は組織が小さいので、こうした部分に関われる可能性が大企業よりも高く、有利な立場にあると言えます。Webやデジタルマーケティングの担当者という括りは外して、企業全体に関わる存在となる事が求められています。