経営者が知っておきたい「顧客満足」
「顧客満足度を高める」ことを、経営課題や営業課題として掲げ、サービス向上に努めている企業は多いでしょう。しかし、顧客満足度という指標自体は非常に曖昧なもので、実際に顧客の満足度が高まっているかどうか実感できない、という経験をしたことはないでしょうか?
ビジネスの成長に顧客満足度向上は重要であると理解しながら、何をもって「顧客満足」なのかが曖昧なために取り組みの効果が得られない。なんとも矛盾した状況です。
ここでは「顧客満足」について改めて定義していき、その向上のポイントを解説していきます。
「顧客満足」ってなに…?
顧客満足度向上に取り組んでいる方に「顧客満足とは何ですか?」と尋ねると、明確な答えが返ってこない場合が少なくありません。「顧客満足とはお客様を満足させることだ」「お客様にとって最適な製品やサービスを提供することだ」などの回答は曖昧なため、顧客満足度向上への取り組みがうまくいっているのかどうかすら認識できないでしょう。
では、結局のところ「顧客満足」とは何でしょうか?それは、「製品やサービスに対するお客様の期待値を超えること」というのが一つの考え方です。ただし、これだけだとまだフワッとしているので、先述の回答とほとんど違いありません。
そのため、顧客満足に対する考え方や測定方法によっては、顧客満足度が上がっても売上が上がらない、だとか、その逆に顧客満足度が下がっているのに売上が下がったわけではない、だから顧客満足度と業績は関係ないし、結果として顧客満足度は気にしても仕方ないというような議論まで散見されます。
これはどう考えたらいいのでしょうか。
顧客満足と売上
著名な経営学者であるピーター・ドラッカーはその著書の中で「顧客は満足を買う」という言葉を残しました。つまり顧客満足度と売上の関係を考えても仕方なく、売上自体が顧客満足の総量という考え方です。しかし実際の満足度を実感するのは買った瞬間ではなく、それを消費してからなので、実際には「また買うか」というのが一つの指標の候補として挙がってきます。また同時に、顧客満足度と売上を対比させて考えるのは意味がなく、売上自体が顧客満足度の結果であるととらえることで、先のような「顧客満足度と売上は関係なく、気にしなくてよい」という議論自体が無意味になることがわかるでしょう。
どのように考えるかはみなさんのビジネスモデルによっても変わるところはあると思いますが、一般的には顧客満足度はビジネスにとって無視できない視点であることは明白であると思います。
顧客満足の測定
では実際に「顧客満足」を売上以外の指標で測定することはできないでしょうか。売上だけを顧客満足度の結果としてとらえてしまうと、今の顧客の満足度の次の売上サイクルで初めてその結果が出るということになり、実際には売上は顧客満足度の遅行指数になってしまいます。これでは問題があったとしても手遅れになってしまうため、やはりいま現在の顧客の満足度も測定することはビジネスの継続性の観点から重要でしょう。
そのために、たとえばアンケートによる高評価の回答率が90%を超えている、製品やサービスへのリピート率が50%に達しているなどの数字を計測して、具体的な指標の目標値と実績値および傾向で判断していくことが「顧客満足度」をビジネスに生かす方法です。 みなさんの中でも取り組まれているかもしれませんね。
新たな指標NPS
また最近注目されている指標が「NPS(Net Promoter Score)」というものです。NPSはその名の通り、Promoter(他者への推奨者)のNet(正味の値)を測るものです。
その商品やサービスを他者に薦めるかどうかを問う形式で、その商品やサービスに対するロイヤリティ(信頼度や愛着)を測ろうというものです。これは将来の顧客行動に深くかかわっていることが証明されており、顧客満足度よりもより将来のビジネスにつながる指標として注目されています。
具体的には、「あなたはこの商品やサービスを友人や知人などに推奨する可能性は、どのくらいありますか?」という質問をし、0から10の11段階で回答してもらいます。
0から6の回答者を批判者、7,8の回答者を中立者、9,10の回答者を推奨者として定義し、(推奨者の割合) - (批判者の割合) = NPS
として計算します。中立者の割合は計算から除外します。
これにより、顧客の中の正味の推奨者の割合を指標とすることができます。
顧客満足を高めるためのポイント
顧客満足の指標については以上のようなものがありますが、つぎに顧客満足を高めるためのポイントを紹介していきます。
顧客満足度には大きく2つの種類の要素があり、それぞれ衛生要因と動機付け要因と呼ばれます。衛生要因は、それが満たされないと満足度が下がるが、満たされていたとしても満足度は上がらない要素、動機付け要因は満たされると満足度が上がるが、満たされなくても満足度は下がらないという要素です。
たとえばお店が営業時間通りに開店していても満足度は上がりませんが、臨時休業などがあると満足度は下がるでしょう。これは衛生要因です。逆に、提供するサービスの内容は一般的なレベル以上であれば、そのサービスのレベルが高いほど満足度も上がるでしょう。これは動機付け要因です。
一般的には従業員満足の構成要素で用いられる考え方ですが、顧客満足に関しても同様のことが言えるでしょう。
これを踏まえて顧客満足度を高めるポイントを考えてみましょう。
ポイント1.現状の顧客満足度を把握する
顧客満足を高めるために、まず現状としてどれくらいの顧客満足度を持っているかを把握することが必要です。方法としては、アンケートを取って満足度を調査する、現状のリピート率とる、NPSを取るなどが考えられます。
いずれにしても、アンケート形式でデータを取るためには、フォーム作成や配信、収集などの手間がかかります。ただし、単純にポイント評価だけでなくフリーコメントをいれることで、回答してもらえた顧客一人ひとりの声を聞けるため、顧客満足度やNPSという指標だけでなく、定性的な情報も取得でき、製品やサービスに対してどのような満足点、不満点を持っているかを知ることで、具体的な対策を講じることができます。
一方リピート率調査では、売上分析を行えばいいのでアンケートよりも手間がかからず簡単に顧客満足度を調査できます。ただし、リピート率という単一の指標からは現状課題が見えにくいため、すぐにその原因がわからず、試行錯誤的な長期的な取り組みになる可能性があります。また、顧客の匿名性の高い商品や販売形態の場合には、そもそもデータを取ることが困難であるため、回答へのインセンティブをつけたアンケートなどが行われます。
このような点を考慮すると、まずアンケート調査を起点に考えることが一般的でしょう。現在ではオンラインによる安価なアンケート調査サービスが提供されています。このような仕組みを使えば、アンケートの配布や集計も容易になるでしょう。
ただ、アンケートの際には次のような点にも注意が必要です。
- 任意の場合、高い満足や強い不満を持っている人のほうが回答率が高い場合がある
- 評価的な項目の場合、人事考課と同様に中央化傾向が表れる場合がある
- 質問文によって回答が変わる可能性がある
- 匿名か記名かで回答が変わる可能性がある
- インセンティブのつけ方で回答者の割合が変わる場合がある
- フリーコメントの場合、無記入の割合が増える
アンケートの方法によっては結果に偏りが生じる場合があるため、アンケート項目の設計、対象者の選定、集計方法などには注意しながら進めましょう。
また、継続的に調査を行うことも重要です。これにより中長期的な傾向を把握でき、偏りも修正してゆける可能性があります。この際に対象や項目を変えてしまうと傾向が追えなくなってしまうため、変更は必要最小限にとどめることも重要です。
ポイント2.製品やサービスの細部に価値があると考える
顧客満足の説明でよく引用されるリッツカールトンホテルは1983年に創業し、それ以前から存在する老舗高級ホテルの数々を押しのけて、わずか20年で業界の勢力図を塗り替えたという経歴があります。リピート率が40~50%と高い水準をキープしているのは、細部までのこだわりによって顧客満足度向上に成功しているからです。
リッツカールトンホテルの特徴として、従業員一人に対し1日米2,000ドルの決裁権が認められています。米2,000ドルの範囲内なら、顧客サービスを充実させるために自由に使用してかまわないという制度です。
ホテル業界の顧客満足は「ホテルの外観」「部屋の内装」「接客態度」などがメインポイントとなります。リッツカールトンホテルは従業員の決裁によって、接客の細部を飾ることで、顧客満足度を高めているのでしょう。
参考:ITmediaエグゼクティブ「顧客満足とは?その向上のポイントを解説」(http://mag.executive.itmedia.co.jp/executive/articles/0802/18/news022.html)
このように、製品やサービスの価値を高めるポイントは細部にあると考えると、顧客満足度向上のためのヒントが見えてきます。
商品やサービスの性質にもよりますが、大きな傾向と個別の事例などを組み合わせて考えると、より現状把握と顧客満足のポイントを明確にすることが可能になります。
ポイント3.具体的な数値で目標を掲げる
「顧客満足度向上!」と経営目標や営業目標を掲げても、実際に満足度が向上しているのかどうか、測定可能な状態でなければ意味はありません。アンケートによる満足度やNPSの調査、リピート率などによる把握をしても、その結果を評価する仕組みがないと、「よかった」「悪かった」で終わってしまいます。場合によっては、いいのか悪いのかの判断すらつかないかもしれません。そのため、顧客満足度を数値化する際にはその目標値を定めることが重要です。何回か繰り返したり、同業他社をベンチマークすることで、妥当性のある目標設定も可能になってゆきます。顧客満足度は、把握するだけでなく、評価し改善目標を立てることで初めて意味のある活動になってゆきます。
ポイント4.目先に利益にとらわれない
先述したリッツカールトンホテルでは次のような顧客満足度向上事例があります。
全客室が予約で埋まっている日に「宿泊できないか」と電話を寄せてくれたお客様に対して、従業員はまず感謝の気持ちを伝えると共に全客室が予約で埋まっている旨を伝え、さらに「ホテルの手配をさせてくれないか」と申し出た。
BtoB企業からすれば、自社製品やサービスに対しての問い合わせをしてくれた顧客に対して、他社製品を紹介するというのは到底考えつかない話です。もちろん、これはホテル業界というサービス利用率の高い業界だからこその話だといえます。
ただし、こうした「目先の利益にとらわれない行動」には、参考になる部分が多いのではないでしょうか。たとえばシステムインテグレーション会社ならば、顧客が要求する仕様を聞き入れあれもこれもと機能を詰め込むのではなく、顧客の課題を理解した上で時として「その仕様では逆に問題が起きます」と提案することです。
仕様が膨らむほど取引利益は大きくなります。しかし、果たしてそれが顧客のためになるのか?目先の利益にとらわれなければ、たとえ多少自社にとって不利益になる行動でも「将来の利益のために」とアクションを起こせるでしょう。
実際に、目先の利益にとらわれない行動が顧客満足度向上につながり、後の大きな利益につながることは少なくありません。
特に日本国内の市場は特に一般消費者向けの市場が人口減少とともに縮小してゆくと予想され、その中においてはリピーターの存在が以前にも増して重要になっています。そのためには、顧客満足の向上は継続的なビジネスを考えるうえで最重要課題ともいえるでしょう。
顧客満足と期待値
このように今後ますます重要になるであろう顧客満足度ですが、顧客の満足や不満足は何によって決まるのでしょうか。それは顧客の期待値と提供される商品やサービスの結果の差によって生まれるものです。同じサービスでも、もとの期待値が高ければ大きな満足にはつながらないかもしれない一方、期待値が低ければ大きな満足を得るかもしれません。つまり、顧客満足度は商品やサービスの絶対値を測るものではなく、顧客に対する期待値コントロールとセットで考えるべきもので、相対的なものであるともいえるでしょう。
たとえば、期待値を形成する要素の大きな要素は価格でしょう。価格が高ければ期待値は高く、安ければそれほど期待しないというのは自然なことでしょう。つまり顧客満足度の結果は商品やサービスの質自体ではなく、価格に見合っているかどうかの指標という見方もできます。顧客満足度が非常に高い場合には、安く提供し過ぎている可能性もあるため、単純な「スコア」に左右されないことが非常に重要です。
また、適切な「期待値」を持った顧客にリーチできることも大きなポイントになります。そのためには、顧客になる前の段階が重要です。これまでのように、広告等によるアウトバウンドな手法では、どうしても宣伝的な内容をもとにして気づきと興味を持ってもらうことが主眼になるため、適正な期待値を意図的に調整することがあったのではないかと思います。たとえば、メリットだけを中心に訴求すると、関心を持つ人は多くなるかもしれないですが、実際とのギャップを生んで結果として顧客満足を下げてしまうかもしれません。最初の段階では顧客は増えるかもしれませんが、不満を感じた顧客は二度と戻っては来ないため、結果として潜在的な顧客まで失うことになりかねません。
そこで、これまでとは異なるインバウンドマーケティングの手法が生きてきます。このアプローチでは、顧客の課題に役立つコンテンツを用意し、顧客側に積極的に見つけ出してもらう仕組みです。そのため、初めから課題と解決のレベルのイメージを持ちやすく、「適切な期待値」を持ってもらいやすいのです。結果として、過度な期待を持たれないため、満足度を下げる確率も減るでしょう。
いずれにしても、単純に数を追い求めるのは顧客満足度向上の視点では非常に大きなリスクを伴います。適切な顧客にリーチし、育成することで満足と長期的関係を持つことが可能になるのです。
まとめ
現在みなさんは、顧客満足に関する明確な定義や指標は持っているでしょうか?漠然と、顧客満足は重要だ、向上させなければいけないと言っていても、その目的や評価軸がなければ感覚論に陥ってしまいます。まずは顧客満足の位置づけや目的を明確にした上で、数値化された指標を用いて、効果の出る顧客満足度向上に取り組んでいただきたいと思います。
それぞれの商品やサービスの性質によっても顧客満足のポイントは変わります。たとえば、例として挙げたリッツカールトンの事例がすべての企業に当てはまるわけではありません。一つの商材が世の中すべての人の満足を得ることもありえません。
いずれにせよ顧客満足は、自社の想定する顧客セグメントの期待値と、実際に提供している商品やサービスのギャップを把握する指標として位置づけ、継続的なビジネスにつなげていただきたいと思います。