マルチチャネルとオムニチャネルの違いをきちんと説明できますか?
「マルチチャネル」「オムニチャネル」という言葉が浸透し始めてから久しいですが、皆さんはこの2つの違いをきちんと説明することができますか?
「説明できそうで上手くできない…」そんな方が意外と多いと思います。
実はこの2つの言葉は混同してしまいがちです。どちらも意味は同じと捉えている方もいるでしょう。
しかし、もちろん2つの言葉には明確な違いがあり、理解していないと恥ずかしい思いをする可能性もあります。ここらで「マルチチャネル」と「オムニチャネル」の違いをしっかりと理解しておきましょう。
それでは、知っているようで意外と知らない「マルチチャネル」と「オムニチャネル」の解説をしていきます。
マルチチャネルとは
まずマルチチャネルを簡単に説明すると、“顧客との接点が多様化している現代ビジネスにおいて、複数のチャネルを提供する戦略”となります。つまり、実店舗での販売やECサイトでの販売などを単体で提供するのではなく「実店舗で販売しつつECサイトも設ける」といった戦略です。
そもそも「チャネル」って?
チャネルとは英語の「Channel」であり、「経路、水路、道筋」といった意味があります。マーケティングの業界においては「販売活動におけるユーザーとの接点」として使用されています。つまり、実店舗での販売やECサイトでの販売、ソーシャルメディアやメルマガ、あるいはDMやFAXなどカスタマーと接点を持つものであれば全てがチャネルです。
ちなみに「チャンネル」ではなく「チャネル」なので注意しましょう。
複数チャネルの提供
マルチチャネルで提供されるチャネルにはどのようなものがあるのでしょうか?
- 実店舗
- ECサイト(PC&スマホ)
- 企業ホームページ
- 訪問販売
- メール
- FAX
- テレアポ
- テレビ通販
- カタログ通販
- ソーシャルメディア
- チラシ、パンフレット
以上がマルチチャネルにおいて提供できるチャネルの種類です。これら全てのチャネルを作り提供している企業は非常に稀でしょうが、チャネルがあればあるほどユーザーとのタッチポイントが増えるのでマーケティングとしては有効的でしょう。(運用を考慮しなければ。)
Webサイトマーケティングも施策するチャネルを増やすことで流入の間口を増やすことができます。
クロスチャネルへの変貌
複数のチャネルを作ることでユーザーとのタッチポイントを増やしてマーケティングを展開していくマルチチャネルですが、実は大きな問題を抱えています。それは、オフラインとオンラインでチャネルを提供することで発生する“在庫管理問題”です。
マルチチャネルは在庫管理が難しい
例えば、実店舗(オフライン)とECサイト(オンライン)で同一の在庫を抱えていたとすると、適切な在庫管理を実現するためにはリアルタイムな在庫反映が必要不可欠になります。しかし多くのケースでは実店舗とECサイトの在庫管理が別々になされていて、適切な管理が不可能な状態でした。
その結果、ECサイトで注文が殺到しても実店舗で既に売り切れているため販売する機会を失い、多くの機会損失を生みだしてしまいます。そこで新たに考えられたのが「クロスチャネル」と呼ばれる戦略です。
適切な在庫管理を実現したクロスチャネル
クロスチャネルとは在庫管理システムや顧客管理システム(CRM)などの導入により、各チャネルにおいて統合的に管理体制の取れたマルチチャネルです。つまり実店舗でもECサイトでも商品が購入されたらシステムに即反映され、常にオフラインとオンラインの整合性を取ります。
これにより適切な在庫管理が可能になり、機会損失を減少させることはもちろん在庫数を常に最適に保つことに成功しました。
そしてさらなるユーザーニーズの変化と対応の末、クロスチャネルは次のステージへと進みます。
最終形態、オムニチャネルへ
マルチチャネルからクロスチャネルの重要性が認識されてからほどなく、オムニチャネルという言葉が生まれます。
マルチチャネル間での在庫や顧客を統合的に管理するクロスチャネルに対しオムニチャネルとは、多様化するチャネルにおいてユーザーがチャネルの違いを意識せずにサービスを利用したり製品を購入するというものです。
≪例≫
Aさんは週末、衣替えのためにアパレルブランドを数店舗訪れショップBで欲しいTシャツが見つかりました。しかしAさんが普段購入しているサイズが見当たらなかったためスタッフに尋ねてみたところ、丁度在庫切れだったとのこと。
しかしスタッフは所持しているモバイルデバイスからその場で当店ECサイトの在庫を確認し、数点残っていることをAさんに告げました。
帰宅後にPCを使用して注文してもいいと思ったAさんでしたが、少々面倒に感じたことと注文するまでに在庫が無くなってしまわないか心配になり店舗で購入することに。ECサイトの在庫だが店舗で支払いを済ませ、Aさんは数日後にECサイトから発送された商品を受け取りました。
いかがでしょうか?こちらの例で注目して欲しいのは、Aさんはオフライン(実店舗)とオンライン(ECサイト)の違いを意識することなく商品を購入したという点です。通常であれば実店舗でECサイトの在庫を購入するどころか、スタッフが調査してくれることもありません。どうしてもそのTシャツが欲しければAさんは自宅に帰ってからECサイトにアクセスして在庫を確認し、自分自身で購入しなければなりませんね。
しかしショップBではAさんの面倒を省き、連携の取れたシステムでシームレスなサービスを提供しています。
こういった顧客体験をチャネルの種類に関わらず、サービスを提供するのがオムニチャネルなのです。
オムニチャネルの起源
1970年代から全米展開する大手百貨店であるMayc's(メイシーズ:日本の伊勢丹や高島屋に相当)は、インターネットやPCが普及しはじめた2000年代から経営不振が続いていました。原因は現在でも問題視されている「ショールーミング(実店舗では商品の比較・検討だけを行い、オンラインにて購入する顧客行動)」です。そこでMayc'sは2007年頃からこのショールーミング対策を始め、最も効果を発揮した対策がオムニチャネルでした。
Mayc'sはまずRFIDと飛ばれる無線ICタグを各商品に取り付け、実店舗とECサイトの在庫をリアルタイムで反映させ在庫の無駄を削減。さらに、スタッフにモバイル端末を配布し顧客のためにその場で口コミを調べたり、他店との価格比較をするなどの施策を展開しました。また、店舗に在庫がない場合はモバイルから注文が可能であり、ECサイトから顧客の自宅へ直送されるよう手配可能です。
こうしたオムニチャンネル施策を展開すること、でMayc'sは取り組み開始から約5年で売上げを40%増加させることに成功しました。
これを受けてから2013年頃には多くの企業でオムニチャネル化が進み、現在ではオフライン・オンライン問わず重要性の高いマーケティングとなっています。
オムニチャネルのメリット
以下のオムニチャネルのメリットをまとめてみました。
- シームレスな顧客体験を通じて、ファンを作りだすことができる
- オフラインとオンラインにおける在庫の無駄を無くせる
- オフラインとオンラインで顧客情報を統合し、ピンポイントなマーケティングが可能になる
- 適切な在庫管理で機会損失を減少できる
- 統合した環境で顧客行動データが得られる
- 変動激しいユーザーのニーズへ迅速に対応できる
実現すれば確かなメリットを得ることができるオムニチャネルですが、その構築は容易なものであはありません。
マルチチャネル構築はなかなか大変
Mayc'sの事例にもあるように、オムニチャネルではまずオフラインとオンラインの在庫管理統合が必要不可欠です。そのためには無線ICタグを導入したり、実店舗とECサイトで統合の取れた在庫管理システムを導入する必要がありますね。また、ただオフラインとオンラインの在庫を統合するだけでなく、実店舗スタッフがあらゆる顧客ニーズに対応するための教育とモバイルの活用が求めれらます。
この2つを考えただけでも、オムニチャネルを実現するためのコストと時間はかなりのものになると推測できますね。
また、最近ではさらなる顧客ニーズに対応できるよう「Web接客ツール」を導入する企業が増えています。Web接客ツールとはECサイトを訪れたユーザーに対応するため、チャット機能などでオンライン接客をしたり、ECサイトを訪れたユーザーの属性によってクーポンを配布するなどの機能を備えたツールです。
こういったツールを導入することで、オフラインだけでなくオンラインでも顧客満足度を向上させより次元の高いオムニチャネルを実現することができます。
このようにオムニチャネル構築は容易ではなく、現在では大手企業での展開のみが目立ちます。
しかし、今後オムニチャネルを意識したクラウド型ツールなどが多くリリースされると予測されているので、中小企業やスタートアップがオムニチャネルを実現することも夢ではありません。
まとめ
いかがでしょうか?今回の解説で「マルチチャネル」と「オムニチャネル」の違いについて理解して頂ければ幸いです。また、「クロスチャネル」という言葉も登場しましたが2つの違いを語る上で欠かせないものなので、合わせて覚えて頂ければと思います。
オムニチャネルの重要性は尚も高まっていて、今後数年で各企業のオムニチャネル化は急速に進むと予測されています。
こういった時代のニーズに対応するためには、まずは言葉自体の意味をきちんと理解することも大切ですね。理解した後は自社のオムニチャネル化対応についてじっくりと検討してください。
今後必ず必要になる施策展開として認識しておくと、将来的にマルチチャネル化の必要性が迫られたときに軽いフットワークで対応できるでしょう。
また、このようなチャネルのあり方を意識して、インバウンドマーケティングへ取り組んでみては如何でしょうか。以下のEブックも合わせてご覧ください。