ネイティブアプリの最前線。レスポンシブからネイティブアプリへの移行が必要は本当なのか?
「Web担当者」という呼び名が適切でない時代なのかもしれません。
インターネットの主流がスマートフォンに移っているのは周知の事実ですよね。それに伴いWebサイトの閲覧や利用はネイティブアプリの利用が多くなっているという話も聞こえてきます。
しかしWebサイトに関わっている担当者の中には、利用者のネイティブアプリの実態があまり見えていない方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。特にB2B系の方はモバイル対応やレスポンシブ対応に忙しくアプリまで気がまわらない実情も垣間見られます。
今回はそんな「ぼんやりとしたアプリに対するイメージ」を、ハッキリ持っていただくための調査データを前半で紹介していきます。そして後半には、Web担当者が知っておくべきアプリのポイントをいくつか紹介します。この記事でスマホアプリの世界を少しでも感じてもらえれば幸いです。
アプリとWebサイト
スマホでの利用時間は、アプリが多い?
情報はいつの間にか一人歩きを始め、時としてちょっぴり解釈が広がっていく場合があります。
例えば、次のようなケースです。
“現在のインターネットの主流は、スマートフォンですね。スマートフォンでの利用時間を調査した結果、アプリ利用がブラウザによるWebサイトの利用を大きく上回っていることが分かりました。ですから企業がアプリに取り組むのは、非常に重要になっているのです。“
これは少し前、あるビジネスセミナーの登壇者が話した内容の一部です。冒頭にこう言われた聴講者は、どう思うでしょうか。
"知らなかった。やっぱりアプリ提供は必要だ!"
"Webサイトではなくアプリを中心に考えないといけない"
多くの方がこう思うのではないでしょうか。
実際に2014年にはニールセンから下記の調査データが発表されています。
日本国内 スマートフォン利用時間シェア 2014年7月
出典:スマホ利用は27個のアプリで利用時間の72%を占める~ニールセン スマホアプリ利用状況を発表~(ニールセン株式会社)
アプリの利用時間は72%で、ブラウザを使ったWebの利用時間は28%しかありません。
こうした調査データをもとにした「アプリ優勢の時代」は多く語られています。
しかしこれが必ずしも、「ブラウザからアプリへユーザーは移行してきている」という結論にはならないことに注意が必要です。
アプリ利用の内訳
実際にスマホでよく利用されている、アプリの内訳を見てみましょう。1の調査データとは別のものですが、比較的新しく、アプリのジャンルも細かく分類されています。
スマートフォンで利用しているアプリジャンル
出典:毎日利用するSNS・コミュニケーションアプリ、「Twitter」が「LINE」を4.9%上回る(MMD研究所)
SNS・コミュニケーションツールの利用が70%を超え圧倒的です。さらに内訳もあるので紹介しましょう。
スマートフォンアプリで利用しているSNS
※出典元は2の調査データに同じ。
SNSの勢いそのままに「LINE」が圧倒的、そして「Twitter」「Facebook」がつづきます。「Instagram」までが、現在の主要ソーシャルメディアといって良いでしょう。
アプリの時代になる!とは言えない理由
上の二つの結果から、必ずしもアプリの方が優勢とは言えない、という結論が出ます。
なぜならコミュニケーションツール、特にLINEはWebサイトというよりも機能的にはメーラーに近いからです。企業がメーラーのようなコミュニケーションツールを提供すべきでしょうか。一部の企業を除いてそうしたサービスはおこなわないのが賢明でしょう。
ここがブラウザの次はアプリの時代、と言えない大きなポイントです。最初に紹介したビジネスセミナーの登壇者は、アプリビジネスの関係者です。ですから「Webサイトよりアプリですよ」という話でまずは聴講者の心をアプリに向けさせていきましたが、実態は少々違うようです。
上記の「スマートフォンで利用しているアプリジャンル」の調査結果にある別ジャンルについても、多く使われているものを見ていきましょう。
「動画」が55.5%、「天気」が47.0%となっています。これらはどちらかと言えば、「機能を中心としたサービス、ツール」と言えるでしょう。こうしたものはブラウザ版も従来からありましたが、アプリの方が快適に使えるならばそちらに移行するユーザーも多そうです。
「ゲーム」「ナビゲーション」もブラウザで提供できる機能ですが、アプリの方がより優れた内容にできます。スマホのカメラ機能と連動した、「写真/ビデオ」といったところは、さらにアプリならではのものと言えるでしょう。逆にビジネスサイトとして脚光を浴びる「EC」については、オークションサイトと合わせて3割にも達していません。
データから見えてくること
データをもとに検証してきましたが、まとめると次のことが言えそうです。
- アプリ利用時間の増加はソーシャルやコミュニケーションツールが多く、一般のビジネスサイトとはあまり結びつかない
- ブラウザでのWebサイトの閲覧はアプリに移行しているわけではない
- アプリでニーズが高いのはソーシャルなどに加えて情報提供といった役割のものが多い
- 写真や動画といったスマホに付属した機能と連動したアプリならではの機能を持つものは価値が高そう
ですので一部の情報を鵜呑みにして、「これからの時代はアプリだから、Webよりアプリに力を入れていこう」や、「アプリを作れば、上手くいきそう」といった考えは、慎むべきでしょう。
アプリの基本
ネイティブアプリ
ここからはアプリについて、Web担当者が知っておきたいポイントについていくつか見ていきましょう。
スマホアプリで多くの方が真っ先にイメージするのは、「ネイティブアプリ」と呼ばれるものです。この記事も基本的には、ネイティブアプリを中心に書いています。iPhoneはApp Storeで、AndroidであればGoogle Playという、各OSのストアからダウンロードして使うアプリになります。
ビジネス視点で見ると、Webサイトに比べて次のようなメリットが挙げられます。
- プッシュ通知が出せる
- ストアから探せるのでユーザーにダウンロードしてもらいやすい
- 動作が速いのでユーザーに快適に操作をしてもらえる
これらの特徴については、後ほどもう少し詳しく紹介していきますが、他の種類についても見ていきましょう 。
Webアプリとハイブリッドアプリ
大きく分けて、他にも二種類のアプリがあります。ただしこの二つは、非常に定義が曖昧ですので大まかな区分けだと思っていてください。
まず「Webアプリ」です。これはブラウザ上で動くアプリになり、私たちが従来からWebサイトとして認識しているものも、多くあります。
具体的には「Google Maps」のような、動的なサービスがこれにあたります。「Google ドライブ」といったブラウザを使ったストレージサービスもこの分類ですので、こうしたWebサービスをイメージして覚えると良いでしょう。ビジネス的なメリットとして、ネイティブアプリに比べ開発コストはかなり安く抑えられます。
「ハイブリッドアプリ」は、このWebアプリとネイティブアプリを合わせたものです。外枠のメニューや機能をネイティブアプリで、中のコンテンツはWebと同じものを使う、といった形がよく見られます。コスト的にも、ネイティブアプリに比べ抑えられます。また最近はこの形を取るアプリが目立ってきています。
アプリはビジネスに活用できるか?
アプリの現在を知るために、ネイティブアプリの特徴についてもう少し細かく見ていきましょう。ビジネス視点でのメリットとして3点紹介しましたが、以前からよく言われてきたこれらについては、実は少し怪しくなっています。
長くプッシュ通知が送れるのがアプリの大きなメリットとされてきましたが、最近はブラウザの機能で通知が送れる「Webプッシュ通知(ブラウザプッシュ通知)」という方法があります。これを使えばアプリ無しでもプッシュ通知をユーザーに届けることが可能です。
またアプリストアから入手してもらえる、というのもメリットとは言い難い面があります。これだけアプリが多くなると、アプリストアで自分たちのアプリを見つけてもらう、ダウンロードしてもらうための取り組みが必要です。
「ASO」という言葉をご存知の方も多いでしょう。App Store Optimization(アプリストア最適化)、つまり検索エンジンで上位表示を目指すのと同じようにアプリストア内で上位表示をおこなう施策になります。
また機能的なメリットと言われる表示スピードでは、Webサイトの技術でも「AMP(Accelerated Mobile Pages)」という、ページを高速化するものがあります。Googleが推奨していることもあり、一年ほど前から注目度が高まっています。現在はメディアサイトでの利用が目立ちますが、今後は他のジャンルにも取り入れられていくでしょう。
以上、ASOについては少し性格が異なりますが、機能という点ではブラウザを使って閲覧、利用されているWebサイトも技術進歩でかなりのことが実現できるようになっています。以前はアプリや特別なプラグインがないと不可能だったことも、HTML5やJavaScriptを使えば、多くのことが実現可能です。
そんな中でネイティブアプリが強い力を発揮するのは、例えばスマホに内蔵されたカメラや動画を使った機能でしょう。簡単なものならば室内の写真や動画を撮って、そのまま送れるリフォームアプリ。リッチなものはそれにARを使うというのも、有りでしょう。
こんな風に「その機能は、アプリでないと提供できないか」「アプリを作ってビジネス的なメリットがあるか」といったことを念頭に、まずはしっかりした企画づくりからおこなっていきたいものです。
まとめ
アプリの現在を知るために、いくつか情報を紹介してきました。まだアプリを手掛けていないWeb担当者にもう一つ覚えておいてもらいたいのは「アプリはWebの延長ではない」という点です。
ここで主に紹介してきたネイティブアプリは、AndroidならJavaで、iOSならSwiftやObjective-Cで開発していきます。つまりWeb担当者にお馴染みの、HTMLやJavaScriptという技術ではないのです。
またWebページでは、「かぜ薬を希望しているユーザーに対しては薬局のトップページではなく、かぜ薬のページを表示させる」という、ランディングページの最適化が当たり前になっています。しかしアプリの世界だと、それがおこなわれていない場合が多くあります。技術的な制約があるためで、それに対応できるものとして「ディープリンク」という仕組みがあるものの、まだ十分には機能していません。
Web担当者は技術的、マーケティング的にもアプリに近い立場にはいるものの、それでも新たに学んだり経験することが数多くあります。これまで培ってきたものだけでこなせない分野ですが、逆に言えば新たな知識や経験を得るという、楽しみも多くあります。ですから高い好奇心や向上心を持つ担当者にとっては、とても魅力的な分野と言えるでしょう。機会があればどんどんとチャレンジしていきたいものです。