キーワードから紐解く業界分析シリーズ:弁護士事務所編
検索キーワードから紐解く業界分析シリーズ:弁護士事務所編
デジタルマーケティングにおけるテクノロジーの発展に伴い、サイトやユーザー分析の手法は日進月歩で進化しています。しかしながら、カスタマージャーニーやUI/UXがフォーカスされる一方で、業界や市場全体の動向を追跡するような「マクロ視点」のスキームは取りざたされることが少なくなっているのではないでしょうか。
「木を見て森を見ず」
と言われるような状況に陥らないよう、本シリーズでは様々なデータから「業界」や「市場」といった大枠のトレンドを分析し、戦略に落とし込んでいくための手法を紹介、解説していきます。
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法律の専門家である「弁護士」。戦後は日本全国でも5000人ほどしかいなかった弁護士人口も右肩上がりで増加し、2018年には40000人を突破しています(日本弁護士連合会『弁護士白書2018年版』よりhttps://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/statistics/data/white_paper/2018/1-1-1_tokei_2018.pdf)。一方で、裁判所が発表している司法統計によると、直近5年間の新受事件数数はほぼ横ばいとなっており(http://www.courts.go.jp/app/files/toukei/148/010148.pdf)、需要に対して弁護士過剰問題が深刻化しているのではないか、という声もあがっています。
このような状況の中で、一般的な民事案件を取り扱う弁護士・法律事務所の新規案件の顧客獲得競争は激化していくと考えられます。インターネットは匿名性も高く、法律相談との相性は良いと思われる一方で、大手法律事務所のインターネット上での広告宣伝文が景品表示法に違反するといった問題が起こったりと、獲得競争が激化しているからこそとも言える、新たな問題が発生している可能性もあります。
激化する競争市場の中で、的確に消費者のニーズを捉え、効率的なWeb戦略をたてるにはどうすればよいのでしょうか。そのヒントを探るべく、マーケットインテリジェンスツール”SimilarWeb(シミラーウェブ)”を活用し、検索キーワードのデータを中心に弁護士業界のトレンドを分析します。
■SimilarWebとは
SimilarWebは世界で数億デバイス規模のパネル(視聴率モニター)から提供されたWeb上での行動データを用い、通常のWeb解析ツールでは一切取得できない他社のアクセスデータを統計的に分析することの出来るツールです。
「法律」カテゴリの業界俯瞰
まずは本シリーズのテーマでもある「業界」全体の動向を俯瞰してみてみましょう。そもそも 法律×インターネット の業界の中でどういうプレイヤー(サイト)が存在しているのか、どのプレイヤーがうまくいっている/力を持っているのか、ということを明確にし、どこを競合としてみなすべきか、または味方につけていくべきなのかを見極めていく必要があります。
今回は、まず、マーケットインテリジェンスツール「SimilarWeb(シミラーウェブ)」の”カテゴリ分析”という機能を用い、SimilarWeb内でカテゴライズ済の”法律”というカテゴリ(業界)の中で「どのサイトがアクセスを多く稼いでいるのか」というランキングを見てみます。
業界内でも圧倒的な知名度を誇る「弁護士ドットコム(bengo4.com)」がセッション規模で2位以下のサイトに5倍以上の差を付けてランクインしています。その他でも弁護士・事務所検索のポータルサイトのランクインが目立ちます。このランキング内では、実に10サイト中6サイトがポータルサイトとなっています。あくまでトラフィック(セッション)ベースではありますが、弁護士業界のインターネット事情をひも解く上で、これらポータルサイトの存在は無視できないものとなっております。
しかし、大手の法律事務所ではポータルサイトからの集客に頼らず、インターネット広告や自社のオウンドメディアを通じてトラフィックを獲得している事務所も少なくありません。
本日はキーワードを軸に分析を進めますが、まずはインターネット上にはどのようなプレイヤーがいて、どこが一定の成果を挙げていると思われるのか、あらかじめ把握しておくことが重要です。
「法律」カテゴリ内のキーワードトレンド
次に、「検索キーワード」をベースにし、業界のトレンドを1段階ずつ深堀りしていきましょう。
先ほどと同様の”法律”カテゴリに属するサイトの中で上位100サイトを母体とした中での検索キーワードランキングを分析します(データ範囲:2018年9月~2019年8月)
TOP30の中に”有休”を含むキーワードが多く含まれます。また、複合キーワードとして”義務化””義務”が多いことも一目瞭然です。
すでにお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、これは2019年4月から年間5日以上の有休休暇の付与が義務付けられたことから、時事的なトレンドとしてあがってきたものと思われます。どんな業界にでも言えることではありますが、このように市場に与えるインパクトの強い法律や制度の改正がなされるときは、その情報の広がりや、施行される時期が近づくにつれてキーワードの検索需要が爆発的に発生、または増加することが当たり前の現象として起こります。もちろん法律に関わることなので発信する情報の精度は問われますが、出来る限りのスピード感をもってコンテンツを発信していくことでトラフィックを大きく稼いでいくチャンスにもなります。
今回の”有給休暇”に関しては実際に施行されたのは2019年の4月ではあるものの、2018年9月~2019年8月の12ヶ月分の長期データで見てもこれだけ多くのシェアを占めているということで、法律施行の前後でも話題性は高く、注目度が非常に高かったことが伺えます。また、同じランキングの前後に”みなし残業”や”労働基準法”といった関連のキーワードも多く、「有給休暇」というトピックををきっかけに様々な”労務問題”に焦点があたっている、と考えることもできます。(本記事では割愛しますが、同様のデータを時系列でモニタリングし、このトレンドが継続されるのか、沈静化していくのか見極めることも重要です)
しかし、このデータを基に「Webで法律相談の顧客獲得するには”有給休暇”関連のキーワードでSEO対策/リスティング広告を行えばいいのか!」と解釈するのはいささか尚早です。
”有給休暇”関連ワードの検索主体としては、「コンプライアンス遵守のため正確に制度を理解しておきたい雇用者・経営者側」と、「有給休暇の権利を行使したいと考えている・興味を持っている被雇用者側」の双方が存在すると考えられるためです。例えばですが、”有給 義務化 罰則”というキーワードには、「法に則り正しく有給休暇を付与しなかった場合、企業側にどのような罰則があるのか」と不安になっている人事、労務部の担当者の検索意図が読み取れます。一方で、「有給 理由」いうキーワードには、「有給休暇を取りたいけど上司にどう説明すべきかわからない」「上司に有給休暇取得の理由を尋ねられたが、法律上報告する義務はあるのか?」といった疑問を持っているであろう労働者の検索意図が現れていると考えられます。
単純に狙いたいワード・トピックを含めてSEO対策をすれば良い/リスティング広告を出せばよい、という時代は終わっており、ユーザーの検索ニーズに対してどれだけ的確かつ付加価値の高いコンテンツを提供できるか、ということが重視される時代ですので、検索語の裏にあるニーズを正しく捉え、よりターゲット像を細分化設定する必要があります。
キーワード(ニーズ)ごとにベンチマークは変わる
ニーズが顕在化しているものには必ず数多の競合がひしめき合ってるものです。本記事の前半でも述べたように、検索キーワードからユーザーのニーズやターゲット像を読み取ることが重要ですが、そのターゲット像によって、ベンチマークすべき対象も大きく変わってくることがあります。
例としてSimilarWebの「検索キーワード分析」機能を用い、”有給”を含む検索クエリ(上位100件の合計)のオーガニックでのアクセス先ランキングを表示してみました。
1位の”kigyobengo.com”というサイトは企業法務に強みを持つ法律事務所の公式サイトでした。また、2位以下も会計ソフトのサイトや、総務/人事/労務向けのサービスサイトや、メディアが目立ちます。「雇用者側」のニーズに答えるコンテンツが”有給”関連の自然検索流入の大半を占めているということになります。仮に企業法務領域で新規企業顧問契約の獲得を目指したい場合は、競合の法律事務所だけではなく、このように会計、労務関連の業者やコンテンツが検索エンジン上の競合になることを想定し、それらのプレイヤー、サイトもベンチマーク対象とする必要があります。
一方で、被雇用者側へ向けたサービス、コンテンツを持つサイトでは”roudou-pro.com”というサイトのみがTOP10にランクインしていました。ただし、サイト名の通り労働者向けのサイトではあるものの弁護士/事務所を検索できる、いわゆるポータルサイトにあたりますので、純粋な弁護士事務所のサイトに限って言えば上位にはまったくと言っていいほど存在しないことになります。
もちろん、「有給問題だけで裁判を起こす労働者はいないのでこのトピックに限って対策しても直接は利益にならないのでは」、、、という考えもあるかもしれませんが、ブランディングの観点や、メディアの質をあげるためのコンテンツ拡充と考えればこれだけニーズのあるキーワードを放置するのはもったいないとも考えられます。
ある程度ベンチマーク対象のサイトを絞ったら後はそのサイトが自社のベンチマーク設定として適切かどうか、確かめていくことも必要です。
ついつい、「あそこはこの業界では大手だから」「広告いっぱいやってお金かけてそうだから」といった安易なベンチマーク設定をしてしまいがちですが、自社がコンテンツSEOを強化するつもりであれば、ベンチマーク対象のサイトもSEOに強いサイトかどうか、確かめる必要があります。
例えば、下図のようにSimilarWebを使ってベンチマーク候補の複数サイトを比較し、流入チャネルを分析してみると、roudou-pro.comが他社に比べてSEO流入が圧倒的に多いことがわかります。有給関連のキーワードに強く、被雇用者向けのコンテンツを配信しているサイトで、かつ「サイト全体としても業界の中で特にSEOに強い」、ということが明確になればより優先してベンチマークする根拠も強くなります。
まとめ
結果的に”有給休暇”というトピックに焦点をあてた分析となりましたが、今回の記事内でご紹介した一連の分析の過程で得たデータでは、他にも「離婚」「モラハラ」「脅迫罪」など様々なトピックがトレンドとして見受けられました。本記事で取り上げたような「市場・トレンド・競合・ユーザー・ニーズ」と多面的に分析をするスキームは、およそいずれのトピックにも当てはめることが可能です。
リードプラス株式会社では、Webのトラフィック、キーワードなどのデータを様々なテクノロジーを活用し、広告運用代行のご提案を行っておりますので、お気軽にご相談ください。
※本記事はマーケットインテリジェンスツール「SimilarWeb(シミラーウェブ)」のデータを多く引用しております。SimilarWebはパネルデータを基にした統計・推計のデータであることを理解しており、傾向やトレンドを探る目的で利用しています。本記事および記事内に含まれるデータ、見解は特定の第三者を評価するものではございません。