デジタルマーケティングに関する2つのアンケート調査結果の紹介と考察【2020年上期】
アンケート調査は、トレンドをつかむのに有効です。デジタルマーケティングに関しても、現在の姿を把握することができる様々な調査結果が多く発表されています。
今回は2020年の前半に発表されたものの中から、特に気になる調査を2つ紹介していきます。
アンケート調査結果2選
それでは、2020年の前半に発表されたデジタルマーケティングに関するアンケート調査結果について、「貢献」と「人材」に関するものを紹介していきましょう。どちらも企業のマーケティング担当者を対象にした調査です。
1.デジタルマーケティングの貢献
まずは、デジタルマーケティングの貢献に関する調査結果からです。調査を実施したのは株式会社富士通総研経済研究所です。調査対象は年商1,000億円以上の大企業、そこで働くデジタルマーケティング担当者です。回答者数は1,294人となっています。対象が絞られ、サンプル数も十分にあるため、かなり精度の高い調査データといえそうです。
まずはずばり、「デジタルマーケティングのビジネス貢献度」に関するデータです。
デジタルマーケティングのビジネス貢献度
「貢献している」という回答結果が、75.5%で大勢を占めます。
これはある程度、想定どおりの回答結果といえるでしょう。
マーケティングの大部分に対して、デジタルが絡むようになってきています。つまりはマーケティングの大きな部分をデジタルが占めるわけで、その意味ではもはやデジタルマーケティングの貢献が低い時代ではないわけです。
一応「貢献していない」という回答も5.9%はあるものの、これはほとんど気にしなくてもいい数値だと思います。なぜなら業種、業界によってはどうしてもマーケティングそのものが効きにくいというのがあるからです。あるいは社風として、マーケティングそのものが受け入れづらい企業の可能性もあります。
「どちらともいえない」が16.4%あるのを、どう読み解けばいいでしょうか。これについては効果測定や評価の問題が大きいと思われます。施策によっては効果測定がしづらいというケースがありますし、ビジネスの形態によってはマーケティングがどの程度成果に寄与しているかを測りにくいといった場合もあるでしょう。
こうしたことから「貢献していない」「どちらともいえない」はあまり気にする必要がなく、トータルで見ればデジタルマーケティングの貢献は多くの方が感じている現状といえるでしょう。
ただしデジタルマーケティングの具体的な取り組み内容を見ると、少し違ったことも考えてしまいます。
デジタルマーケティングの代表的な手法やツールの利用率(抜粋)
1位にくるのは、「インターネット広告」で76.1%あります。
複数回答ですし、ネット広告自体はほとんどの企業が取り組んでいるはずなので、これ自体はおかしなことではありません。
ただ率直な感想として、やはり日本のデジタルマーケティングの中心は広告がくるのだな、という印象がぬぐえません。マーケティングの一部分としてネット広告があるのなら良いのですが、企業によってはマーケティング活動の大部分が広告出稿、というケースも少なくはありません。
マーケティングは「売れるための仕組みづくり」です。広告費用を投じてそのリターンをどれだけ得るか、費用対効果を良くした運用をおこなっていくか、といった面にだけ注力しすぎないようにしたいものです。
それ以外にも上位には、「Webサイト最適化(SEO/SEM)」や「ソーシャルメディア(SNS)マーケティング」といった、定番のものが並びます。
施策ごとでどれくらいの成果が出ているのか、といった割合は公開されていませんが、コメントとして「新規の獲得ができた」といった内容がいくつか掲載されています。それも旧来型のマーケティングや営業活動では、獲得ができなかったであろう新規が獲得できているということが、評価につながっているようです。
これまでと同程度の新規が獲得できても、それは獲得経路がオンライン経由に代わったに過ぎず、これだとデジタルマーケティングの成果とはいえないでしょう。従来BtoBのデジタルマーケティングではリードナーチャリング(育成)の部分が中心になっていましたが、評価がされやすいという意味では、リードジェネレーション(獲得)について、より意識を高めて取り組むのが良さそうです。
この調査の優れているのは、各企業のデジタルマーケティングの段階に関しても調査がおこなわれている点です。詳しい調査結果が富士通総研のWebページに掲載されていますので、内容はそこで確認いただきたいのですが、もっとも多い段階と回答されているのは「部分最適」です。
「全体最適までできている」という回答は、その三分の一以下に過ぎません。
デジタルマーケティングを成功させるポイントとして、いかに企業全体を巻き込んでいくかという点があります。しかしこの結果を見ると、そこにはまだほとんどが進めていない状態、というのがわかります。
デジタルマーケティングにおいてもDXやCXといった言葉が多く飛び交いますが、これらはマーケティング以外の部門と連携ができていなければ、実現できるものではありません。
その意味では外部に向けてとともに、内部をどう調整していくかが、今後のデジタルマーケティング担当者にとっての必要な取り組み、重要なスキルとなっていきそうです。
【この調査データの掲載ページ】
デジタルマーケティングのビジネス貢献は戦略とリーダーシップの有無で大きな差 ~「大企業のデジタルマーケティング取り組み実態調査」結果から~
2.デジタルマーケティングの人材育成
次に、デジタルマーケティング人材に焦点をあてた調査結果のプレスリリースもありましたので、こちらからも紹介をしていきましょう。株式会社シンクロによる調査で、対象となっているのは経営者、およびマーケティング責任者、マネージャーです。
この記事では公開されている調査結果の中から、二つの回答に絞って紹介します。
まずは、現場におけるマーケティング人材の量についてです。
現場のマーケター人材が足りているか
「足りていない」という回答が、過半数で51.4%を占めました。
実際のところ私もこれまでに、マーケティングの人員が十分に足りている、という企業は見たことがありません。実感として人材不足を感じる職種です。
これには大きく三つの理由があると考えられます。
一つ目は適した人材そのものがいない、ということです。
そして二つ目として、企業として人員の募集自体をしてもらえないといったケースが考えられます。先ほど、私自身もマーケティング担当者が十分に足りている企業を見たことがないと書きましたが、実のところそれはマーケティング部門に限らず、他の部門も同じです。そういったところを含めて、企業がどの部門の人材を優先して補充していくかとなりますが、その際にマーケティング部門が優先されるとは限りません。
最後は自社のマーケティングを拡充したい、といった思いに比して、それを実行するための人的リソースはどうしても少ないといった形になることです。デジタルマーケティングそのものがやること、手法といった面で多岐にわたっています。実行面だけでも昔のように、販促や広告だけがマーケティングの範囲ではなくなってきています。それに対応する意味でも、従来からのマーケティング部門への人員配置では不足してしまうのは、当然といえます。
次に、質に関わる調査データです。
人材要件の明文化ができているか・各社員のスキルの可視化ができているか
今いるマーケティング人材そのもののではなく、人材要件とスキルの可視化という、面白い切り口の設問です。
結果として、まずは人材要件の明文化については「できていない」が53.5%で、過半数を占めます。
実のところ人材要件というのは、非常に難しいものです。Webサイト制作やシステム開発であればモノの要件ですからまとめやすいですが、ヒトは遥かに複雑です。なぜなら専門的な知識やスキルだけでなく、事業自体を理解してもらったり、環境に馴染んでもらうといったことも考えなければいけません。そうしたことも念頭において必要人材の要件をまとめるのは、難易度が高い作業といえます。
各社員のスキルに関する可視化という設問に関しては、「できていない」が41.6%ですから、そこまでネガティブともいえないでしょう。評価に関連することについては、人材要件をまとめる作業よりしやすいといった面もあります。
しかしスキルを可視化できているという考えが、現実とズレている可能性も否定はできません。非常に多様なデジタルマーケティングのスキルについて漏れなく、正しく評価できることそのものが、非常に難しい作業だからです。
この調査では他にも、社内のマーケティング教育や研修といった点に関する設問もあります。またアフターコロナ時代に向けた、マーケティング部門の役割の拡大といった設問もされています。
詳しくは株式会社シンクロのプレスリリースページを参照いただければと思います。
【この調査データの掲載ページ】
重要度が高まるアフターコロナのデジタルマーケティング。9割の組織がもつマーケター育成の課題とは? ~マーケティング教育についてのアンケート結果まとめ~
まとめ
ふたつのアンケート調査結果から見えてきたのは、大きくは「人材」に関するものです。
非常に複雑化し、範囲も広くなってきているデジタルマーケティングの領域を企業内の人員だけで対応していくのは、かなり困難な作業といえそうです。専門性も高くなってきていますし、新しい手法も増えてきているので、育成をしていくというのもなかなか難しいといえるでしょう。
解決方法のひとつとして、外部リソースをうまく活用していくということが挙げられます。制作会社や広告代理店のように手を動かすことが中心、あるいは理論重視のコンサルタントとは違う、事業を深く理解したり、伴走型支援をおこなうといったパートナーの役割が、今後はますます重要になっていきそうです。