経営者が知っておきたい「新規事業」

経営課題に関する調査において常に上位に挙げられる課題の一つが新規事業や製品、サービスの開発です。

しかしながら、初めから成功する新規事業を開発するための確実な方法論などは残念ながら存在せず、試行錯誤の中で成功にたどり着くということが一般的ではないでしょうか。

そのような前提に立ちながらも、少しでも新規事業開発に役立つポイントをまとめてみました。

 

なぜ新規事業が必要か

 そもそもなぜ新規事業開発が必要なのでしょうか。

それが必要だと挙げている経営者によってその背景は異なるかもしれませんが、よく語られる話として「会社の寿命30年説」があります。都市伝説のように受け取られる方もいるかもしれませんが、実際に考えてみると、いまから30年前といえば1988年でバブル経済期であり、金融機関や不動産関連の事業は隆盛を極めましたが、30年経ったいまでは、たとえば銀行は低金利で収益にも大きな影響が出ています。

さらに30年遡ると1958年であり、戦後の復興期でエネルギーや鉄などの事業が栄えていましたが、これらの事業は30年後のバブル期には経済の主役とはいいがたい状況ではなかったのではないでしょうか。感覚的にも30年というと産業構造は大きく変化しているというのは納得感があります。

しかし、人の観点で言うと、たとえば大学卒業者が現在の定年の目標とされている65歳まで働くとすると、40年以上の期間があり、30年しか持たない会社では終身雇用は成り立たなくなってしまいますね。

また、企業に対する社会的要請の一つには事業の継続性もあり、その観点でも組織の継続性は重要です。しかしながら、近年のIT革命にとどまらず、グローバル化や社会構造、社会的価値観の変化などにより、事業環境は常に変化します。

外的環境が変化していく以上、コアとしている事業のニーズや競合環境は常に変化してゆくものです。既存事業の業態も変化するとともに、新規事業も行うことにより、組織全体としての継続性を保たないといけないのは宿命ともいえます。

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事業のサイクル

経済産業省の製造基盤白書(ものづくり白書)(2016年版)によると、製品のライフサイクルが短縮されていることがうかがえます。

その理由としては、「顧客や市場のニーズの変化が速い」、「技術革新のスピードが速く、製品の技術が陳腐化しやすい」、「業界が過当競争に陥っている」の順で挙げられています。

さらに、適切なライフサイクルを確保するための取組みとして最も多く挙げられているのが「価格競争に陥らない事業領域へのシフト」になっています。

つまり、既存事業を継続してゆく中でも、過剰な価格競争や短すぎる製品ライフサイクルから抜け出すために新規事業や新たなビジネスモデルを模索する動きが高まっているのです。

新規事業というと、経営の多角化によるリスクの分散という目的を思い浮かべられるかもしれないですが、安定した既存ビジネスのなかでも求められているアプローチなのがおわかりいただけるでしょう。

新規事業の作り方

そのような背景で多くの企業が新規事業の必要性を認識し、取り組んでいるのですが、ではどれだけの企業が新規事業で成功しているのでしょうか。ビジネスの教科書には、本業が危機的状況になっている中で新規事業が会社を救ったというような「物語」が並んでいますが、このような例は全体から見ればごくわずかなのではないでしょうか。

「企業の生存率」というのを聞いたことがあるでしょうか。これには諸説あり、企業から10年後の存続率は6%から50%以上まで非常に幅があります。調査の母数や対象、また企業規模や業種によっても異なるでしょう。ただ、ここで分かるのは事業を継続することの難しさです。

新規事業という場合には、すでにある企業内での新規事業を含むため、こうした統計の数字には表れにくいですが、実際にはより厳しい数字になっているのではないかと推測します。

新規事業はなかなかうまくいかない

いずれにしても、新規事業を開始し、それを継続することは決して容易なことではありません。特に企業内で新規事業を始めるには、企業とは異なる注意のポイントがあります。

資金計画

すでに継続している事業があるため、同じようなノリで計画を立ててしまうことは大きなリスクがあります。また片手間に始めるビジネスではうまくいく確率も低いです。新規の事業である以上は、製品の開発、広告やマーケティング、販路の確保などが新たに必要になるのです。もちろん既存ビジネスの基盤を利用できる部分はあり得ますが、試行錯誤の期間も含めてある程度の投資は必要です。また、既存事業のブランドを過大評価して売上計画を多めに立ててしまうこともよくあります。事業単体で黒字化するには一般的には数年かかりますので、それらを見越した余裕のある資金計画が必要です。

人員計画

新規事業にとってもう一つ重要な要素は人材です。企業内の新規事業の立ち上げに関して必要なプロセスは、基本的には新規の起業と変わりません。法人設立などに関する事務手続きが不要なだけです。

しかしながら、多くの企業ではほかの業務を行いながらプロジェクト的な取り組みを行ったり、業務時間外での活動を行うサークル活動のようなケースさえ見受けられます。通常の起業でこのように片手間で行うことはないでしょう。個人レベルの副業で週末に行うのとはちがいます。事業基盤がある企業が新規事業を立ち上げるうえでは、専任の責任者とメンバーで行うことが必要でしょう。

また、事業領域が異なる場合には、その業界の経験者を外部から招くなどして、リスクを減らすことも重要です。

既存ビジネスとの関係

新規ビジネスといっても既存ビジネスとかけ離れたことを始めるのはお勧めできません。既存資産も活用できなく、ノウハウもない領域は、新規の企業の立ち上げと同じになってしまいます。

たとえば、富士フイルム社では、デジタルカメラの普及により急速に市場が縮小していたカメラ用のフィルム事業から、デバイスやメディア、ヘルスケアなど多様な事業構造に見事に変革を果たしました。一見関係ないように見える化粧の事業においても、コラーゲン、抗酸化技術、ナノテクノロジーなどの基礎技術はフィルム事業で培われたものであり、その応用という位置づけなのです。

新規事業は全くかけ離れたビジネスを行うことではない

このように、企業における新規事業というのは、全く未知の市場に乗り込んでいくというよりも、既存市場の変化、自社の強み、経営資源を見直し、5年後、10年後を見据えたビジョンに沿った事業領域を選定することです。

そのうえで不足している技術や資源をどのように外部から調達するのかを検討するのがよいでしょう。

新規事業のニーズの見極め

では、どのように新たな事業領域を選定すればよいのでしょうか。

先に述べたように、自社の強みや経営資源を見直して、それを生かせる新たな商品やサービスの開発が必要になるわけですが、当然そこにはニーズがないと市場が成り立ちません。

また、同時にどのような競合が存在しているのか、それぞれの競合はどのような戦略をとっているのかを調べる必要があります。

そのためには、自社が実施するアンケートなどの1次データや、調査会社のデータや公的機関の統計情報などの2次データなどの活用が必須ですが、加えて現在では様々な角度から「検索する」ということも重要な要素です。なぜなら、どのような検索キーワードに対してどのような広告が出ているか、どのような記事を出しているかによって、競合のアプローチを紐解く重要なカギとなるからです。

また、同時に顧客も検索を通じて商品やサービスを探していることが多いため、検索量や検索エンジンのサジェストなどを通じて検索者が何を求めているかなどを知る手がかりともなります。

これらは様々なツールによって定量的に分析することが可能で、市場の規模やニーズを把握する重要な手掛かりとなるでしょう。

 新規事業の戦略の考え方

新規市場における戦略を考える際には、いくつかのフレームワークが存在しており、どの戦略を選択するかを決定したうえで、それを実現するための戦術を検討してゆきます。

 業界での位置づけ

  • リーダー:市場におけるシェアナンバーワン
  • チャレンジャー:リーダーに次ぐ業界ポジション
  • ニッチャー:特定の小さい市場において確立された独自のポジション
  • フォロワー:市場のリーダーの戦略を踏襲しつつ、より下位のポジション

 新規参入においては、いきなりリーダーやチャレンジャーになることはないでしょう。まずはニッチャーかフォロワーからスタートします。いずれが適切であるのかは、自社の強みや経営資源、競合の戦略などや市場ニーズなどを把握したうえで判断します。

 また、すでに多数の事業者が参入しているレッドオーシャンを避け、新たな市場を創出し、競合のいない市場での地位を確立してゆくブルーオーシャン戦略を取る選択もあります。ただ、ニーズがあり、かつ競合もいない市場を見つけるのは容易ではないでしょう。

 これらは戦略についてのフレームワークの一例ですが、SWOT分析、3C分析などの市場や自社の分析や、マクロな外部環境分析であるPEST分析などを行い、ターゲットの市場と参入の戦略を決めましょう。

潜在顧客へのリーチ

いかに適切な戦略を立て、それに沿って製品やサービスを開発しても、それを適切な潜在顧客に認知されなければ販売にはつながりません。

従来は、マーケティング活動において認知度がない新製品の認知度を向上させるために、テレビ、新聞、雑誌などのメディアや公共スペース、交通などの広告および最近ではインターネットの検索連動広告やオンラインメディアへのバナー広告などを利用し、莫大な費用をかけてきました。

これは顧客行動がAIDMAというモデルで説明できていた時代では正しいアプローチでした。顧客行動のスタートはA(Attention:注目)であり、それを起点にI(Interest:興味)、D(Desire:欲求)、M(Memory:記憶)、A(Action:行動)と行動します。そのためスタートであるAttentionの間口を広げるほど顧客を増やすことができるため、広告や展示会での認知活動はそのあとの顧客を創出するうえで大きな役割を果たしました。

しかし現在のインターネットが発達した社会においては、顧客行動は変化しました。AISASモデルに代表されるように、S(検索)が大きな役割を果たすようになったのです。AISASモデルでは、A(Attention:注目)I(Interest:興味)、S(Search:検索)、A(Action:行動)、S(Share:共有)という行動プロセスで説明しています。検索からスタートするケースも増えてきており、検索がより重要性を増してきています。

 つまり、顧客へのリーチは正しく検索で見つけてもらえるための活動ともいうことができます。

より検索で見つけてもらうためのマーケティングのコンセプトを「インバウンドマーケティング」と呼びます。これに対して、広告や展示会、イベントなどの従来の活動を「アウトバウンドマーケティング」と呼びます。

そのもっとも大きな違いは、インバウンドマーケティングが見込み客の主体的な検索という行動を起点にしているのに対し、アウトバウンドマーケティングは見込み客の意思に関係なく自社の都合で露出をする点です。このため、本当の見込み客を見つけられる確率は非常に低いうえ、膨大なコストと手間をかけていたのです。

新規事業とインバウンドマーケティング

新規事業を検討する際には、マーケティング的な視点は非常に重要です。さらに、マーケティング活動は広告や展示会などによるアウトバウンド活動による認知度向上から、検索の目的から顧客の課題を先回りして見つけてもらうインバウンド型のアプローチは不可欠になっています。

さらにインバウンドマーケティングを意識した市場調査を行うことで、市場の規模や顧客の課題、期待などの理解にも大きく役立つことでしょう。

まとめ

顧客ニーズや競合などの市場の変化がかつてないほど速くなり、製品や事業のライフサイクルも短縮している現在、企業の命題の一つである継続性を確保するためには、新規事業への取り組みは不可欠です。企業業績もよく、資金に余裕がある今こそ将来に向けた投資には最適なタイミングでしょう。

しかしながら、やみくもにただ新しそうなことを行っても成功は難しいのは理解されていると思います。少しでも成功の確率を高めるためには、自社の強みや経営資源の把握からスタートし、参入市場や戦略を決定して製品やサービスを開発し、顧客にリーチしてゆくことが必要です。

この過程の中で強く意識するべきことは市場の中でのインターネットの役割の大きさと「検索」の力です。これは単に検索連動広告を打つことではなく、真の顧客課題や市場規模の考察、およびインバウンドマーケティングによる顧客に見つけてもらうアプローチの2つの側面があります。

その意味で、新規事業とインバウンドマーケティングのコンセプトは非常に相性がいいといえるでしょう。この考え方が新規事業の成功のお役に立てば幸いです。