【フラり対談】株式会社農材ドットコム
このコーナーでは、「トップランナー」であり「変革者」であり「インフルエンサー」でもあるゲストの方々と、目指すことや苦労話などを気負わないトークで展開しています。今回のゲストは、リードプラスの子会社として2023年6月に新たなスタートを切った農業資材のWebメディア「農材ドットコム」の運営管理人、鳴瀬 昌彦氏です。同氏とともに日本の農業と農業資材市場の活性化に向けた方策について意見と思いを交わします。是非、ご一読ください。
デジタルマーケティングのパワーで
日本の農業の発展に資するメディアづくりを
農材ドットコムは、営農者をはじめとする農業従事者に向けて、広範な農業資材の情報を届けるWebメディアです。2023年6月には株式会社として新たなスタートを切り、リードプラスが出資。そして2024年3月には農材ドットコムの代表取締役にリードプラス社長の堀が就任しました。その農材ドットコムを2005年にローンチし、運営してきたのが鳴瀬 昌彦氏です。現在も本メディアの運営管理人を務める鳴瀬氏と堀が、農材ドットコムにかけるそれぞれの思いについて語り合います。
農業資材情報の一元的な管理と発信
リードプラス株式会社
代表取締役社長
堀 裕
リードプラス社長 堀 裕(以下、堀):デジタルマーケティングとテクノロジーに関する自分たちの専門知を地域の活性化に少しでも役立てたい、という思いをリードプラスは強く持っており、それが農材ドットコムへの出資につながっています。鳴瀬さんはどういう経緯で本メディアを立ち上げるに至ったのでしょうか。
株式会社農材ドットコム
取締役
鳴瀬 昌彦氏
農材ドットコム 運営管理人 鳴瀬 昌彦氏(以下、鳴瀬氏):私はもともと、国内の種苗肥料店や温室施工店を対象とした取引先に農業資材を卸す専門商社で営業を担当していました。当時お取り引きがあった資材メーカーは100社を超え、各社の製品情報を取引先に紹介し、現場のニーズをメーカーに伝え、見積もり作成や販売企画、そしてクレーム対応などを行う日々でした。
当時抱えていた課題の一つが、担当地域によって主力作物が異なるために生じていた営業担当者の知識や経験の偏りで、異動時の得意先へのフォローが困難でした。そこで、製品情報を一元管理することで、異動後の担当者だけでなく、内勤担当者でも対応できるようにしようと考えました。課題の全てを解決するのは難しいとしても、自社と取引先において時間・コスト・フォローの面で大きなメリットが得られると判断したのです。
サムネイル画像を活用したPDFカタログのダウンロードページを個人で作成し、社内提案へと進めました。それをきっかけとして、営業部から企画部へ異動し、社内で本格運用することになりました。2004年11月に会社が同系の肥料商社と吸収合併することになったので、そのタイミングで独立。そして生産者・農業関係者・資材メーカーをターゲットとした農材ドットコムを2005年4月に開設し、今日に至っています。
農材ドットコムWebページ
堀:農業資材専門のWebメディアにどのような可能性を感じたのですか。
鳴瀬氏:繰り返すようですが、農業資材は多岐にわたり、メーカーの数が非常に多く、販売網も全国各所に広がっています。対してそうした農業資材の情報を一元的に扱う専門メディアが存在せず、市場にどんな資材があり、どういったメーカーがどのような資材を提供していて、どこに行けばそれが購入できるのかが、営農者の方々からは見えにくい状況でした。その状況を打開する一手として農材ドットコムを開設したのです。
農業の生産性アップへの貢献を視野に
堀:農材ドットコムを発展させることで、農業の生産性向上に大きく寄与できると私は見ています。
例えば農林水産省(農水省)の調査データによると、日本の農業総産出額は長期的には減少傾向にあるものの、近年は米や野菜の価格上昇などから9兆円前後での推移を続けています(図1)。
図1:日本における農業総生産額の推進(2013-2022年推移/単位:億円)
資料:農林水産省「令和5年度 食料・農業・農村白書」(2024年5月31日公表)のデータをもとに作成
その一方で、農業生産資材の価格が上昇したことから、生産農業所得は減少傾向にあり、2022年は前年比7.3%減の3兆1,051億円に落ち込んでいます(図2)。
図2:日本における生産農業所得の推移(2013 - 2022年推移/単位:億円)
資料:農林水産省「令和5年度 食料・農業・農村白書」(2024年5月31日公表)のデータをもとに作成
こうした中で農材ドットコムは、代替え資材や農生産の低コスト化・省力化が図れる資材、機器の検索・発見をサポート可能です。これにより、営農者の方々の生産性向上や生産農業所得増に貢献できると見ています。
鳴瀬氏:おっしゃるとおりです。また、農材ドットコムでは、病害対策や防獣対策の強化につながる情報も発信しています。さらに、農材ドットコムを使うと、地域の実情をよく知る資材・種苗の販売店もすぐに見つけることが可能です。これらも農業の生産性向上に寄与し得る特長といえるでしょう。
堀:近年では営農者の方がYouTubeなどのSNSメディアを使い、栽培品の紹介や生産のノウハウを発信するケースが増えています。そうしたUGC(User Generated Content)の展開に力を注ぐことも計画しているのでしょうか。
鳴瀬氏:UGCのための仕組みはまだできていませんが、UGCやSNSプラットフォームの展開・強化はすぐにでも実現したいと考えています。というのも、UGCやSNSを通じて地域を超えたノウハウや知見の共有が営農者間で進めば、間違いなく農業全体の生産性向上に寄与できるからです。また、SNSなどを通じて、農産物の収益アップを目的としたコミュニティーもさまざまに創出されていくでしょう。
リードプラスの一体化がもたらす新たな媒体価値とは
堀:農材ドットコムのように読者ターゲットが明確な専門メディアは、そのターゲットに向けた製品を供給する側にとって非常に魅力的な広告媒体です。そのような媒体の事業にリードプラスが加わったことで、どういった相乗効果が生まれると期待していますか。
鳴瀬氏:農材ドットコムを開設した最大の目的は、農業資材メーカーが自社の製品を効率的に、かつ広範にPRできる場を創出することです。
資材メーカーによる製品の売り込みでは、営業担当者の属人的なノウハウと活動に頼る昔ながらの方法から長らく変わっておらず、Webメディアを使った広告・マーケティングの展開にはあまり興味を示してくれませんでした。
しかし近年では農業資材の売上が伸び悩むようになって、多くのメーカーが営業経費をそれほどかけられなくなってきました。結果として、農材ドットコムのようなWebメディアを上手く活用して、自社の製品の魅力を潜在顧客に効率的に伝え、売上アップにつなげたいというニーズが大きくなっているのです。
堀:そうしたニーズに応える際に、リードプラスのノウハウが生きてくるということですね。
ご存じのようにリードプラスは現在、農材ドットコムを使ったマーケティング支援のサービスとして、バナー広告などの広告枠を提供しています。またそれに加え、資材メーカー専用のWebページを設置して商談につながる見込み客のリスト(セールスリード)を獲得したり、そこからメーカーのWebサイトや販売店に送客したりといった取り組みも展開中です。こうした取り組みが、資材メーカーのニーズにピタリと合致し得るということでしょうか。
鳴瀬氏:そのような側面もありますが、特に重要なのはマーケティング施策に対するリードプラスの分析力です。それを生かしながら、マーケティング施策に対するしっかりとしたフィードバックを資材メーカーに提供すれば、メーカー各社は自社の製品について、誰に対して、何をどう売り込みをかければ、潜在顧客の興味・関心を喚起しやすいか、あるいは顧客の獲得につながりやすいかが見えるようになります。その知見をもってデジタルマーケティングを展開して、見込み客を獲得できれば、売上アップに向けた営業活動をバックアップ可能です。
これは、資材メーカーにとって魅力的なシナリオです。「農材ドットコムを活用すればそれが可能になる」という認識が広がれば、多くの資材メーカーがこのメディアを広告媒体として使うようになるでしょう。
堀:確かに、広告出稿などのマーケティング施策がどう機能したかを分析し、施策改善の取り組みをお手伝いできるのはリードプラスの強みです。そのパワーを上手く活用いただければ、資材メーカー各社が提供するさまざまな製品と、営農者の方々の多様なニーズとを効果的につなぐ場として、農材ドットコムはより魅力的な存在となるでしょう。
それによって日本農業の生産性向上と農業資材市場の活性化に貢献できれば、我々としても嬉しい限りです。
鳴瀬氏:実際、リードプラスによる支援のもと、農材ドットコムを使ったマーケティングで大きな成果を上げている企業も出てきていますね。
堀:おっしゃるとおりです。例えばある鉄鋼メーカーでは、ビニールハウスに向けた資材提供の事業を始めるに当たって農材ドットコムに自社専用のWebページを設置し、そこからの情報発信によって市場での認知度を一挙に高める手段を採用されました。加えてリードプラスによる支援のもと、そのページを通じて製品のPRを同社に展開し、さらに製品を購入した営農者の方の使用レポートをページに掲載、製品に対する理解度を高める取り組みも行っていただきました。結果として、同社のページへのアクセスは増え続け、製品の売れ行きにつながっています。
鳴瀬氏:そうした施策の成功事例も、資材メーカーにとって貴重な情報になりますね。
農生産に関するあらゆる情報の発信へ
鳴瀬氏:日本の農業に関しては、担い手不足や従事者の高齢化が以前から指摘されており、産業のサステナビリティという点でかなり厳しい状況にあります。そのため、農業ドットコムのビジネスモデルについても、そのサステナビリティに疑念を抱く方もいらっしゃいます。この点について、堀さんはどう見ていますか。
堀:確かに農水省のデータを見ると、農業経営体数は減少傾向をたどっており、2023年も前年比で4.7%減少し92万9,000経営体に落ち込んでいます。とはいえ一方で、農業経営体の法人化・大規模化が進み、2023年における団体経営対数(法人経営体を含む数)は前年比1.5%増の4万1,000経営体へと伸びています(図3)。また、農業生産に占める団体経営体のシェアも年々拡大し、2020年は農産物販売金額の37.9%、経営耕地面積の23.4%を占めるに至っているようです。
この傾向は今後も続くことが想定され、結果として、農業の生産効率を高めるための投資はいま以上に活発になる可能性もあります。そうなれば農材ドットコムの果たすべき役割はおのずと大きくなっていくのではないでしょうか。
図3:日本における農業経営体数の推移(単位:1,000経営体)
資料:農林水産省「令和5年度 食料・農業・農村白書」(2024年5月31日公表)のデータをもとに作成
堀:そうした状況の中で、鳴瀬さんは農材ドットコムの今後をどう描いていますか。
鳴瀬氏:農材ドットコムを通じて、農業生産にかかわるあらゆる情報を一元化するのが私の理想です。
現在は施設園芸における農業資材を中心に扱い、資材に関する情報のカバレッジは相当のレベルに達しています。とはいえ施設園芸の市場規模は1,000億円程度で、農業生産を支える製品の市場全体の10分の1にも満たないサイズです。また、施設園芸における資材市場はトラクター、コンバインといった農業用機械の市場(約4,000億円規模)や肥料の市場(約4,000億円規模)、さらには農薬の市場(約3,200億円規模)などと比べてもかなり規模が小さいといえます。
そのため今後は、農業機械や農薬、肥料の情報についても、施設園芸における農業資材と同じように細かくカテゴライズしながら一元管理して提供していきたいと考えています。そして「農業といえば農材ドットコム」という認識を世の中に広く定着させていくのが目標です。
堀:システムとして農業ドットコムを強化する計画は何かありますか。
鳴瀬氏:今日では生成AIのような、情報サーチのための革新的な技術が出てきています。そうした革新技術を農材ドットコムの中に取り込み、営農者をはじめとする農業従事者の方々が、生産に関係するさまざまな疑問に対し答えを簡単に得られるようにしたいと考えています。
堀:なるほど、そうした理想の実現に向けて、リードプラスも全力で取り組んでまいります。これからもよろしくお願いいたします。本日は、対談にお付き合いいただきありがとうございました。