BtoBに実践的に取り組むファネル、Flywheel(フライホイール)について

BtoBにおいては、Demand Waterfall(デマンドウォーターフォール)という、有名なファネルが存在しています。

BtoBでおぼえておきたいファネル。Demand Waterfall(デマンドウォーターフォール)について

一方でHubSpotは、「Flywheel(フライホイール)」という従来とは異なるモデルを提言、それに合わせたマーケティング理論とHubSpotの活用を推進しています。
この記事ではHubSpotが提唱する、Flywheel(フライホイール)について解説していきます。

Flywheel

Flywheel(フライホイール)とは

初めに、Flywheel(フライホイール)の概要について紹介していきます。なおこの記事では以降、英語表記のFlywheelを使っていきます。

前提となる考え方

日々進化しているBtoBマーケティングの世界ですから、より実情に合わせたフレームワークが常に望まれています。Demand Waterfallの生みの親であるシリウスディシジョンズそのものが、「Demand Unit Waterfall」という新たなモデルを提唱していますが、これはABMを考慮した素晴らしいものです。

しかしHubSpotはこれとは異なる、Flywheelというモデルを提唱し、それに沿う形でビジネスを拡大していく方法を示しています。
イメージがしやすいように、まずFlywheelのモデル図を見てみましょう。

Flywheelのモデル図

出典:Hubspot公式サイト

従来のファネルとは、まるで異なる形をしています。ファネルとは漏斗のことで、ほとんどの形状は逆三角形をしています。つまり上から下(BtoBの場合はリードの獲得から受注まで)にいくに従い、だんだんと細くなっていく形状です。実際のマーケティングにあてはめてみると、「リード数100件に対して、成約は5件を獲得」といった形になります。

しかしFlywheelは漏斗ではなく、円の形となっています。これは「リード数100件から生まれる成約は5件」という単純な流れを表していません。実際にビジネスにおいては、問い合わせから成約まで直線型にはほぼなりません。また成約をして終わり、といったケースも少ないでしょう。こうした前提を踏まえ、次にFlywheelを詳しくみていきましょう。

顧客視点のモデル

ファネルと違う、またその名称となっているFlywheelはなぜ円形のモデルなのでしょうか。それは前項で紹介した、「実際のビジネスは直線の流れではない」「成約をして終わりではない」というのが大きく関係しています。
キーワードとなるのは、「顧客」です。マーケティングファネルのもととなっている漏斗は、水をそそぐと出口から一直線に流れ出て、そのまま無くなります。しかし実際のビジネスにおいては、成約をした顧客が次に別のものを購入する場合があります。また(これがより大きなポイントですが)、成約をした顧客が他者にその製品やサービスを勧め、そこから新たな成約も起こり得ます。
逆に製品やサービスを成約した顧客が、不満を持ったり不快な思いをしていれば、新たな問い合わせを妨げる働きをおこなうでしょう。もちろんこれは昔からあった消費行動ですが、インターネットが広まり爆発的な増加を見せている昨今は、それがより多く存在しています。レビューサイトやブログだけでなく、SNSの出現により口コミは膨大な数になっています。BtoBにおいてもこうした顧客間の情報の交流が、購買行動に大きな影響を与えるようになっています。こうした顧客重視の観点は従来のファネルにはありませんでしたし、直線型のモデルではカバーしきれません。

そこでFlywheelは、円形のモデルとなったのです。円形とは終わりではなく、循環する姿を表しています。
ちなみに一般的なフライホイールとは、日本語で「弾み車」と訳されます。回転により蓄えられたエネルギーを使う、といった機器です。レコードプレーヤーや時計、また車のエンジンに使われています。

さてFlywheelモデルに話を戻しましょう。Flywheelの円形は、顧客にとって次のことを表しています。

  • 満足度の高い顧客:
    ビジネスの成長を加速させるエネルギーとなる。
  • 不満、不快な思いを持つ顧客:
    自社の成長スピードを鈍らせる。

つまりビジネスを伸ばしていくためには、顧客満足度をより高め、増やしていく努力が必要というのを表しています。たとえ顧客が不満を抱く場合にも、それを最小限に抑える努力をしていくことが大切です。
こうして企業側だけが販売活動をおこなうのではなく、顧客がその後押しをしてくれる状態をつくることがFlywheelの大きなポイントであり、それが円形になり絶えず進んでいくことが示されているのです。

Flywheelの円を考えるうえでは、次の三つのエネルギー量も念頭に置く必要があります。

  • 回転速度
  • 摩擦の大きさ
  • サイズ

回転速度とは、「戦略」や「実施するプログラム」を指します。インバウンドマーケティングはこの一つです。他にも商品やサービスの提供形態、販売フロー、広告やカスタマーサクセス(サポート)などを含みます。これらを考えるうえでは、第一に顧客の成功を目指し、そこから新規顧客の獲得へと広がることを期待します。
一方で回転する円には、ネガティブな事がらも発生します。それは摩擦です。摩擦とはエネルギーをもってビジネスを推し進めようとする際、それに反発してスピードを落としたり、止めようとする力です。顧客とうまくコミュニケーションが取れないといった対外的なことの他に、部署間の連携がないことや推進する体制、効率的な業務プロセスの構築ができないなど、社内的な事情で多くの摩擦が発生します。
摩擦を取り除きスピードをあげていくことで、より多くの顧客が自社のサービスや製品を広げてくれることでしょう。またこの円のサイズが大きいほど、ビジネスの規模や成功は拡大していきます。

次にFlywheelのモデル図に示されている、3つのフェーズを押さえておきましょう。

○Attract:顧客を引きつける。
新しい見込み顧客を引きつけることを指します。
インバウンドマーケティングが主にこの部分を担います。

○Engage:顧客との結びつきを強める。
パーソナライズすることにより、訪問する顧客に対して高いエクスペリエンスを提供していきます。これにより自社のサービスや製品を購入したい気持ちを高めていってもらいます。
具体的なパーソナライズがおこなわれるのは、Webサイト(コンテンツ)やEメール、マルチチャネルを使ったコミュニケーションなどがあげられます。体験版の提供や無料イベントなどもこの範疇です。

○Delight:顧客に喜びを感じてもらう。
サービスや製品を購入いただいたうえで、それを使い続けながら高い満足を感じてもらうことを目指していきます。ナレッジサイトやチャットボットでのスムーズな疑問の解消、早期あるいは先回りする形でのサポート、ロイヤリティプログラムなどがあげられます。
ここで顧客の高い満足の共有が、Flywheelの大きな成果へとつながっていきます。

モデル図についてはもうひとつ、周囲に配置した顧客の段階についても触れておきましょう。

  • Strangers:潜在顧客
  • Prospects:潜在見込み客
  • Customers:顧客
  • Promoters:推奨者

これと先ほどの3つのフェーズを組み合わせることで、より各フェーズでおこなうことが明確になるはずです。また各フェーズにまたがる形で顧客が存在する、という点も注目すべきポイントです。顧客はこのようにフェーズごとに明確に分けられるものではありません。だからこそ企業側も部署ごとに完全に区切られた体制では、ビジネス全体を押し上げていくことができないのです。Promoters(推奨者)の存在は、ここまで読んでいただいたことで十分に理解できるでしょう。

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Flywheelとファネル

Flywheelがファネルに置き換わる(あるいは新しい形のファネルとなる)、という言い方は正しくありません。Flywheelと共に、ファネルは使い続けることが推奨されています。

前章で見てきたように、Flywheelは広く全体を包んだモデルです。ややもすると、概念を示しているとも言えます。そのため個別の業務においては、ファネルの方が有効に働くのです。
一般的にファネルがもっとも有効に働くのは、営業プロセスとされています。ファネルの大きな特徴である上から下へと減衰していく状態は、ほとんどの営業プロセスにあてはまるからです。
「リード獲得(100%)→見込み顧客リスト(60%)→商談(40%)→成約(20%)」という流れと数値は、典型的なパターンでしょう。こうしたプロセスの改善、問題点の発見というのはファネルの直線型モデルにあてはまることで、解決がしやすくなります。

Flywheelとファネルの関係は、Flywheelがさまざまなファネルにより構成されているイメージです。営業―マーケティング-インサイドセールス-カスタマーサポート(サクセス)が個別の成果をファネルで追いながら、Flywheelという大きなモデルをすべての部署で共有することで、他の顧客を紹介してくれそうな場合にいち早く気づけたり、スムーズに商談までつなげるといったことが可能になります。
多くのマーケティングのフレームワークは、個別業務の改善や効率化のためだけでなく、それを共通モデルとして持つことで、ビジネス全体を大きく推進していくことが期待されています。個別ではなく全体をひとつにまとめ、取りこぼしを無くすFlywheelにより、ビジネス全体が大きく底上げされることでしょう。Flywheelはまさに、ビジネスフレームワークが持つ大きな役割を担う存在といえるのです。

HubSpotとFlywheel

Flywheelを構成する3つのフェーズ、「Attract」「Engage」「Delight」について、具体的な方法は本文の中ではごく一部しか記載していませんが、多くがHubSpotが持つ機能でカバーされています。
スコアリングやシナリオによる自動メール配信といった、機能だけの一般的なマーケティングオートメーションツール(MAツール)と違い、HubSpotがビジネス全体を最適化できる存在というのがよくわかります。

また日本のBtoBマーケティングの大きな問題として、MAが単なるメール配信ツールになっていることがあげられます。あるいはMAを導入しているものの、まだほとんど使っていないというケースも多くあります。いずれも費用対効果という意味では、大きなマイナスです。
実のところ、マーケティングはツールだけでは解決できません。多くの部署が関係するBtoBの分野であれば、なおさらです。Flywheelは社内の共通理解という役割だけでなく、HubSpotというツールとともに、ビジネス全体を底上げできる力を持っています。

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