BtoBでおぼえておきたいファネル。Demand Waterfall(デマンドウォーターフォール)について
「ファネル」という言葉は、多くのビジネスパーソンが耳にしたことがあるでしょう。逆三角形をしたモデルも、すぐに思い浮かべることができるかもしれません。
ただしビジネスの形態によっては、一般的なファネルとは違うものが用いられることがあります。BtoBでは、Demand Waterfall(デマンドウォーターフォール)が有名です。
この記事では、BtoBのファネルとして有名なDemand Waterfallについて解説していきます。
Demand Waterfallとは
まずはDemand Waterfall(デマンドウォーターフォール)の全体像を紹介していきます。
基本の考え方
一般的にファネルには、「購買のプロセスを示すもの」「マーケティングのプロセスを示すもの」などがあります。これから紹介していくDemand Waterfallは、「マーケティングからセールスまでのプロセスを示すもの」です。ほとんどのBtoBにおいて、セールス(営業)の存在は欠かせません。マーケティングの流れにおいても、「リードを獲得する(リードジェネレーション)」「リードを育成する(リードナーチャリング)」など、複数のプロセスが存在します。またマーケティングと営業の間に、インサイドセールスを挟むケースも多くあります。Demand Waterfallはこれらを包括し、可視化してBtoBの全体像を把握できるフレームワークです。
フェーズの分類と活用
もう少し詳しく、Demand Waterfallの内容を見ていきましょう。なおDemand Waterfallには大きく3つの種類があります。ここでの解説では、定番となっている2012年に発表されたモデルを使っていきます(このモデルはThe Rearchitected Waterfall と言います。3種類のファネルそれぞれについては、その後に触れます)。
Demand Waterfallは大きく、次の四つのステップに分かれます。
○Inquiry:見込み顧客の獲得
この中でインバウンドとアウトバウンドに分かれます。
○MQL(Marketing Qualification):見込み顧客の選別~営業への引き渡し
多くは営業活動を含むフェーズを指します。ここで、インサイドセールスが活用されるケースが多くあります。またリードの種類により、この中でも次のように分かれます。
- AQL:マーケティング部門が有望とするもの。
- TAL:インサイドセールス部門も有望とするもの。
- TQL:営業に引き渡せる段階になっているもの。
○SQL(Sales Qualification):営業による商談
実際の営業活動を指しますが、ここで特徴的なのは「営業みずからが、ふだんの活動で獲得したリードも含める」点です。これを「SGL(Sales Generated Lead)」と呼びます。営業がMQLを受け入れたものについては、「SAL(Sales Accepted Lead)」と呼びます。
○Close:受注
ここで示したのは基本的な解説ですが、企業やコンサルティング会社、ツールベンダーにより細かな定義については異なる場合があります。基本的な意味や区分けを押さえつつ、実務の中で解釈を変えて対応するようにしましょう。
Demand Waterfallの活用についても少し触れておくと、BtoBマーケティングでは見込み顧客を受注につなげる流れを、「パイプライン管理」と呼びます。Demand Waterfallをもちいることで、この部分の管理がしやすくなります。あるいはプランニングや収益予測、実施後の効果測定といった使われ方をします。
シリウスディシジョンズについて
ここでひと休みを兼ね、このデマンドウォーターフォールモデルをつくりあげたシリウスディシジョンズ(SiriusDecisions)について触れておきましょう。
2001年に創業されたリサーチ&アドバイザリーファームで、ガートナー社から独立したメンバーにより立ち上げがおこなわれています。ガードナー社は、世界有数のリサーチ&アドバイザリー企業として知られる存在。Web関連ではCMSの格付けなどで名前が出てくる会社なので、耳にされた方も多いでしょう。
シリウスディシジョンズの創業メンバーは、このガードナーでBtoBマーケティングの研究をおこなっていたということで、世界のBtoBマーケティングとセールス理論を推進する企業となっています。
3つのモデル
Demand Waterfallは、これまでに3つの種類が存在しています。時系列に合わせて紹介していきましょう。
■2006年(The First SiriusDecisions Waterfall)
最初に発表されたデマンドウォーターフォールは、2006年版です。逆三角形の形をしていて、従来のファネルのイメージに近いものです。各フェーズは、次のようになっています。
○Inquiries
問い合わせなど、リードの獲得。
○Marketing Qualified Leads
マーケティング部門が担当するリード。
○Sales Accepted Leads
営業部門が受け入れたリード。
○Sales Qualified Leads
営業部門が担当するリード。
○Close/Won Business
各フェーズを見ていくと、長くBtoBマーケティングに携わっていたり注目されていた方は、どこか懐かしい印象を受けるかもしれません。BtoBマーケティングが日本で広まってきた時には、こうしたフェーズ分けとプロセスが基本として語られました。このことからも、シリウスディビジョンズの理論がBoBマーケティングの根幹にあることがわかります。
○2012年(The Rearchitected Waterfall)前項で詳しく紹介してきたのが、この2012年版です。The Rearchitected Waterfall」とも呼ばれます。
次に紹介する2017年に発表されたものが最新版ですが、現在もDemand Waterfallといえばこのモデルを指し、実際に使われているのの多くはこのモデルです。これが現在もスタンダードとなっている背景は、次のような事がらと関係があります。
- マーケティングオートメーション(MA)
- インバウンドとアウトバウンドの存在
- インサイドセールス
- 営業の実態を加味(営業部門が日ごろの活動で創出するリード)
- ADR(Account Development Representative)
この中のひとつ、マーケティングオートメーション(MA)との関わりについて少し掘り下げていきましょう。MAを代表する機能といえばスコアリングですが、これは「属性」情報だけではなく、「行動履歴」までを含めていきます。具体的にはオンライン上で「Webサイトにいつ訪問したか(どのページを閲覧したか)」「メールを開封したか(どのリンクをクリックしたか)」などです。
そもそもシリウスディシジョンズがDemand Waterfallを発表する前に、BtoB向けのファネルがなかったわけではありません。2000年代に入る前からSFAやCRMは存在していましたので、それらを加味したモデルは局所的に思考されてきました。しかしそれらだけでは実際のBtoBの流れは表すことができず、仮にモデル化できても、今度はそれを実現する効率的な手段がありませんでした。その意味でMAの登場は、BtoBを理論と実務の両方の面で推進する、大きな役割を果たしたのです。
なおHubSpotもかつてはこの2012年のモデルを使い、説明がされていました。それになぞらえると、「HubSpotはリードナーチャリングだけではなく、見込み顧客をインバウンドという手法をもちいて獲得できる、他のMAとは異なる強みを持ったツール」といえます。
デマンドウォーターフォールのもっとも新しいモデルは、2017年に発表された「Demand Unit Waterfall」です。これが誕生した背景には、次の存在が影響しているといいます。
- ABM(Account Based Marketing)
- SNS
BtoBマーケティングに関心がある方なら、ABMが注目を高めていることに異論はないでしょう。アメリカでABMの機運が高まったのは2014年ごろといいますので、2012年に発表されたモデルにはこの反映はありませんでした。またSNSというのは、主にLinkedInの存在を指しているようです。
このモデルがABMを意識しているというのは、大きな特徴として見込み顧客を個人ではなく、複数人の購入グループとして捉えていることからうかがえます。このモデルの各フェーズについて、簡単に紹介していきましょう。
○Target Demand
理想的な顧客のプロファイル、ターゲットとなるアカウント。
○Active Demand
追っていくアカウント。
○Engaged Demand
エンゲージの取れているアカウント。Inquiryに近い。
○Priporitized Demand
優先順位付け。
○Qualified Demand
見込みあり、という選別。
○Pipeline
営業に案件としての登録。
受注。
ABMが考慮され良いモデルとなっている、という評価はあるものの、これまでとの違いが大きく、なかなか浸透していないというのが実際のところです。
具体的に浸透しにくい理由のひとつが、マーケティングと営業を区分けしていない点にあります。これまでのモデルはフェーズ単位で区切られていましたが、このモデルではそれがありません。多くのBtoBマーケティングのつまずきは、部門間の壁に起因するものです。そのためこうした部門の区分けがないモデルは、成果を高められる可能性は十分にあります。しかしそれが普及の妨げになっているというのが、なんとも歯がゆいところです。
シリウスディシジョンズも十分に普及ができていない、これまでとの違いが大きく理解が難しいという点はわかっていますので、今後何らかの改良(あるいは新版?)も考えられる、まさに進行形のモデルです。
Demand Waterfallの活用
最後に2012年モデルをもとに、実際的な使い方の例をひとつ紹介しておきましょう。目的は、売上達成へのシミュレーションです。
売上目標が10億円、案件単価が200万円だったとします。
Demand Waterfallのモデルに、必要な数値をあてはめていきましょう。ファネルの最後の方に目標として、10億円が置かれます。案件単価が200万円ですから、Closeに必要な受注数は500件です。商談成約率が50%とすると、その前の営業活動(SQL)では倍の1000件の商談が必要です。アポから商談に進む率も50%とすると2000件のアポが必要(MQL)、インバウンドとアウトバウンドで獲得したリストからアポが取れる確率を20%とすると、Inquiryで1万件の獲得が必要になります。
こうしたシミュレーションをおこない、マーケティングの範囲では「1万件のうちインバウンドで6割、アウトバウンドで4割」といったプランニングをおこなっていきます。そもそも商談の1000件が現実離れしているということになれば、目標達成のためどこを改善できるかといった議論になります。
Demand Waterfallのようなビジネスフレームワークを共通言語として持っておくことで、こうした計画や議論が効率的におこなわれていくメリットがあります。