【 フラり対談 】株式会社エー・ピーホールディングス
このコーナーでは、弊社会長の小林がフラりと「トップランナー」であり「変革者」であり「インフルエンサー」でもあるゲストの方々を訪問させていただき、目指すことや苦労話等を気負わないトークで展開しています。是非ご一読ください。
飲食チェーンのファーストペンギンであり続けたい―
エー・ピーホールディングス CEOの野本周作氏
2004年に創業したエー・ピーホールディングスは、産地直結の地鶏料理で知られる居酒屋チェーン、塚田農場を中心に、国内外で外食ブランドを提供する会社です。
食材の生産から流通、販売までを自社で一貫して手掛ける「生販直結モデル」を独自に構築し、独特の接客スタイルで注目された塚田農場は、最盛期には国内で150店舗を超えるまでに成長しました。
しかし、居酒屋市場の競争が激化したことから2017年以降、店舗数は減少傾向となり、業績が悪化。その厳しい時期に入社し、COOを経て現在、CEOとして改革を推進しているのが野本周作氏です。
業績回復に向けてどのような戦略で臨んでいるのか、コロナ禍をどうやって乗り越えたのか、主軸ブランドの塚田農場をどのような形で成長軌道に乗せていこうとしているのか―。リードプラス取締役会長の小林治郎が話をお聞きしました。
「外の視点」が必要だった塚田農場
リードプラス会長 小林治郎(以下、小林):2018年にエー・ピーホールディングスに入ったとお聞きしているので、今年で5年目になりますね。
株式会社エー・ピーホールディングス CEO 野本周作氏(以下、野本氏):2023年7月1日で丸5年になりました。業績が赤字に転落した時期に入社して、コロナ禍中の2020年6月にCOOに就任しました。CEOに就任したのは2022年11月です。
小林:厳しい状況の中で改革を進めてきたわけですね。まずはエー・ピーホールディングスの業績回復に向けた取り組みの歴史についてお話しいただけますか。
株式会社エー・ピーホールディングス
CEO 野本 周作 氏
野本氏:私が入った2018年には既に、塚田農場を復活させつつ、塚田農場より高価格帯の寿司や魚、焼き鳥などの専門店を立ち上げ、売り上げを伸ばす取り組みが始まっていました。「希鳥」や「Na Camo guro」「焼鳥つかだ」といったお店ですね。
専門店を展開する中で、塚田農場のような大衆居酒屋と、高価格帯の専門店では、接客スタイルが違うということがわかってきて、接客の見直しを図っていました。
例えばビールの置き方一つとっても、居酒屋なら「ビールをお持ちしました」と言って置いたらすぐ、手も目線も外すのですが、客単価が高い店では「ビールをお持ちしました」と言って指を離すときのスピードも少しゆっくりですし、目線を外すのもコンマ何秒か長めにするというんですね。
これは居酒屋接客のエースと高級業態のエースの接客をカメラで見比べてわかったことで、居酒屋でやっていた接客だと専門店の市場では戦えないことがわかってきた時期だったと聞いています。
このように会社として、「今までのやり方では通用しない、変えなければならない」と気づき始めた頃に、私は入社しました。入社当時、私は海外を担当していたのですが、ここでも当初は日本のやり方をそのまま海外に持っていけば通用するという空気だったんです。
そこでエー・ピーホールディングスの過去の成功体験を知らない私が、当たり前のマーケティング、当たり前の事業運営をしたところ、コア事業ではないところの業績が伸びたんです。
こうしたことがあって塚田農場のビジネスにも関わるようになったのですが、過去の強烈な成功体験から抜け出すのは本当に大変でした。「KPIを設定してそれを達成しましょう」という話をすると「数字にばかり追い立てられてつまらない」といって辞める人が出たり……。
当時の塚田農場は、「自分たちがやりたいこと」に対する想いが強すぎて、外の視点を持てなくなっていたんですね。業績が落ちているにも関わらず、過去の成功体験にとらわれていたわけです。
塚田農場の真の価値と、外の物差しを組み合わせた施策で業績が回復基調になってきたときに起こったのが、コロナ禍に伴う緊急事態宣言だったのでした。
激動のコロナ禍を乗り切るために
小林:COOに就任したのは、まさにコロナの渦中でしたよね。矢継ぎ早の対応で、メディアに取り上げられていましたが、振り返ってみていかがですか?
野本氏:2018年度まで赤字だった業績が19年度の年末商戦で黒字が見えてきて「これで危機を乗り切れるぞ」と意気込んでいたところで起こったのがコロナ禍でした。
2020年2月下旬のイベント自粛や学校休校の要請以降、週を追うごとに業績が落ちていき、2020年3月30日に小池百合子都知事が「3密をさけてほしい」と呼びかけたことを受けて、夜の街から人が消えたんです。
店舗の責任者からも「コロナ感染を恐れてアルバイトが来てくれない」「お客さんが来ないので9時に店を閉めたい」といった連絡が相次いで、「これは4月にいったん、店を閉めるしかない」と当時の社長(現会長)に話しました。
どれくらいの期間休んだら、どの程度業績に影響するのか、店を休むとしたら物流の対応をどうするか―といったことを精査した上で、社長のOKがでたらすぐに動けるよう準備して、3月31日に、4月2日から全店一斉で休業することを発表しました。
他の飲食チェーンは営業時間を短くするところがほとんどで、休業すると宣言したのはうちが最初だったことから、ニュースのトップで報道されましたね。
小林:発表して一息ついたところにまた、大変なことが起こったんですよね。
野本氏:そうなんです。生産流通担当の部長が言うんですよ。「宮崎などの地鶏、どうしましょう。育ち続けてます」って……。
小林:生販直結モデルならではの問題ですね。
野本氏:まさにその通りで……。これは通販で売るしかない、ということで、慌ててECサイトを立ち上げようとしたのですが、時間がかかるというんですよ。社内を調べてみたら、1年前まで使っていたECサイトのアカウントが残っていたので、それを使って通販サイトを立ち上げました。
小林:その後、第3波、第4波がきたわけですが、社員の方々はどうしていたのですか?
野本氏:倉庫やスーパーで働いてもらっていたのですが、コロナが収束した後のことを考えて、寿司や焼き鳥などの職人研修を内省で急ぎ準備し、希望者が受講できるようにしました。すぐに専門店で通用するようになるわけではないですが、新しいキャリアを考える上で役に立つと思います。
ようやく緊急事態宣言が終結し、新型コロナウイルスも5類の感染症に移行しましたが、まだ売り上げはコロナ前と同じ水準には戻っていないですね。徐々に戻りつつはあるので、復活に向けた取り組みを進めていく計画です。
「あの頃よりいいね」と言われる塚田農場を目指して
小林:エー・ピーホールディングスの業績を伸ばしていくためには、看板ブランドである塚田農場の成長が鍵になると思うのですが、どのような戦略で臨もうとしているのでしょうか。
野本氏:塚田農場を再び人気の居酒屋に復活させたいと思っています。もちろん「あの頃より今の方がいいね」と言っていただけるお店にするのが目標です。
というのも、一度低迷した居酒屋チェーンが同じ名前で復活した例は、ほとんどないんです。他の有名チェーン店さんが名前を変えていることからもわかる通り、とてもハードルは高いのですがやりがいがあります。
塚田農場は居酒屋チェーンが「生販直結モデル」で6次産業化することによって、地方創生に貢献するというビジネスモデルの先駆けになりました。同じように「エー・ピーホールディングスがファーストペンギンになったから外食産業が変わったよね」ということを仕掛けていきたいんです。
そのためにも、まずは自分たちが、おいしさを守りながら技術を駆使して、飲食業界の仕組みを変えていくことが大事だと思っています。
塚田農場がモバイルオーダーに舵を切ったわけ
小林:技術で飲食業界の仕組みを変えるといえば、塚田農場が紙のメニューを廃止してモバイルオーダーに振り切った事例が有名です。導入の背景をお話しいただけますか?
野本氏:塚田農場を変えるためには、接客の見直しが必要だったというのが大きいですね。
もちろん、売り上げがコロナ前の7割までしか戻っていない中、料理の品質を落とさずに変えられるところが接客まわりだけだった、ということもあります。しかし本質は「塚田農場が大事にする接客はどのようなもので、それをどうやって実現するか」を見直すことでした。
塚田農場の接客で重視しているのは「お客さまにおいしさを伝えること」であり、これまではフレンドリーな店員がおいしさを楽しく伝えるコミュニケーションと、食材にまつわる情報が豊富なメニューブックがその役割を果たしていました。
しかし、この方法が今の居酒屋チェーン店で有効なのかというと、疑問が残るわけです。
フレンドリーな接客は「おいしさを伝える」はずが、「リピートしてもらうためにお客さまを喜ばせる」というものになってしまっていた面もありました。
メニューブックも、食材や料理にまつわるストーリーが入った30ページ超のものをつくっていましたが、1卓に1冊置いているだけなので、5〜6人で行くと注文しづらく、せっかくのストーリーが伝わっているかどうかわからない。そもそもみんなで飲みにきているのに、誰かがメニューのストーリーを読み耽っていたらちょっと感じ悪いし、他の人が注文できないですよね。
実はこの「紙のメニューブック」は、私たち会社にとっても負担になっていました。年間、数千万円かけて作るわけですが、メニューの入れ替えや価格の改定がしづらく、臨機応変な対応が難しいんです。
こうした背景から、接客に対するニーズが変わってきた今、「全盛期と同じ接客ではおいしさを伝えきれていないのではないか」と考えたわけです。
今の時代にあった「おいしさの伝え方」をゼロベースで考えると、お客さま一人ひとりが食べたいものを自分の手の中で、好きなように頼めるオーダー端末が必要だと考えました。
しかし、オーダー端末を扱うほぼ全ての資料に目を通して、一部のメーカーには話をお聞きしたのですが、写真が小さかったり、情報を入力するエリアが少なかったりと、私たちのニーズに合わなかったんですね。
その頃、ちょうどお付き合いがあったトレタという会社がWebベースのモバイルオーダーシステムを開発していることを知って話を聞いたところカスタマイズ性に優れたシステムだったので、採用することにしました。
スマートフォンでQRコードを読み込むとメニューが表示されるので、お客さまは自分のスマートフォンからオーダーすることができますし、そこから商品に関するストーリーや相性のいいドリンクの情報なども得られます。
小林:スマートフォンによるオーダーにシフトするとともに、店舗スタッフさんの接客スタイルも変えたのでしょうか。両方を合わせてどのような価値をつくっていこうと考えたのですか。
野本氏:店舗スタッフには、「また来てもらうためだけの接客」ではなく「おいしさを伝えて、また来てもらう接客」を重視するよう伝えました。
ただ、お客さまと店舗スタッフが最初にコミュニケーションして仲良くなるのはオーダーの時なので、それがスマートフォンに変わると、コミュニケーションのきっかけをつかみづらいという課題はあります。
これについては、料理を運んだ時にさらに詳しく料理や素材について説明をしたり、料理の仕上げを店員がテーブルで行ったり、お出迎えとお見送りを丁寧にしたり、といった取り組みで解決していこうと考えています。
小林:全店をモバイルオーダーに一斉に切り替えたのにも驚きました。
野本氏:紙とモバイルオーダーの両方を展開すると、2つのシステムの運用、管理をしなければならなくなるので、コストも効率もよくないんです。モバイルオーダーにすることで人件費が確実に下がるとわかっていたので、1店舗でトライアルを実施した後、一斉導入に踏み切りました。
もう一つ大事なのは、「これまでの接客」という呪縛から社員を解放するためにも切り替えは必要だったということです。「紙のメニューやフレンドリーな接客があるから“ 塚田農場のおいしさ”が伝わっている」と思い込んでいるスタッフに対して、「異なる方法でもおいしさは伝わる」と証明するためにも、過去のやり方をなくすことは大事でした。
小林:モバイルオーダーはブラウザベースなので、私たちリードプラスもお手伝いさせていただいている広告運用で、閲覧履歴を活用したリターゲティングやカスタムオーディエンスの生成に活用できます。今では、Web経由の事前の予約率も40%を超えるところまで来たと伺っています。
野本氏:そうですね。塚田農場のWebサイトも、予約を受け付けることを最優先するサイトに振り切りました。今ではトップページの最も目立つところに、ネット予約の入力欄を入れています。
予約してもらうことで、店舗としては事前の備えがしやすくなります。スタッフのシフトも組みやすくなりますし、食品ロスも減らせますよね。
小林:さらには、はからずもインバウンド対応もできてしまったとお聞きしました。
野本氏:そうですね。ブラウザの翻訳機能を使えば多言語対応できてしまうので、インバウンドが戻っている今、とても助かっています。
ほかにも、メニューをデジタル化したことで変更や価格改定が容易になり、常に旬のフレッシュなおすすめメニューを出せるようになりました。これまではグランドメニューの改訂は年に1回だったのですが、今では季節のおすすめメニューを年に5〜6回変えていくようにしているので、その際に定番メニューも入れ替える形にしています。
省人化と品質管理にネットワークカメラを活用
小林:ネットワークカメラを使った品質管理も行っているとお聞きしています。どのような形で活用しているのでしょう?
野本氏:主にデシャップ台(料理がテーブルに運ばれるまでの間に置かれる台)の上にカメラを設置して、キッチンから出てきた料理のクオリティをチェックしていますが、ほかにも「お見送りをがんばりましょう」といったテーマを決めて、それに合わせてカメラを設置しています。
人員不足でマネジャーがお店に顔を出せないこともあるので、クオリティチェックというよりは、「がんばっているところを上司が(動画を見て)見て評価してくれる」といったモチベーションの向上につなげたいと思っています。
厳しいといわれる外食産業の変革に挑む理由
小林:外食産業は今、人手不足や原料の価格高騰などといった課題が多く厳しい業界と言われています。なぜ、あえて難しい業界に挑戦することを選んだのですか?
野本氏:よく「火中の栗を拾うタイプ」と言われますが(笑)、食に関わる仕事が好きで、この業界を元気にしたいというのが最大の理由ですね。
食の業界に関心を持つようになったきっかけは、大学一年の時にオープニングスタッフとして入ったミスタードーナツのアルバイトでした。当時は店内で材料を混ぜ合わせて、ひとつ一つ油に落としてドーナツを揚げていたんです。そこには製造から販売、生産・販売管理など一連のバリューチェーンが揃っていて、ここで経営のいろはを学び、とてもやりがいを感じていました。
「食べる」ということは、最も簡単に人を幸せにできると思っているんです。つらいことや大変なことがあっても、おいしいものを食べれば元気になれますよね。
そんな食に関わる産業をもっと儲かるビジネスにして、日本の食文化を世界に伝えていくためにも、技術で業界の仕組みを底上げしていきたいと考えています。
エー・ピーホールディングスは、こだわりをもっておいしい食材を生産してくださっている生産者の方々に支えられています。それがあるから私たちは自信を持って料理をお出しすることができ、誇りを持った接客ができるんです。おいしさと技術の力で、外食産業を変えていきたいですね。
小林:ありがとうございました。私たちもマーケティングとプロモーションでエー・ピーホールディングス のビジネスを盛り上げていきたいと思います。
※ 本ページの内容は2023年8月時点での情報をもとに制作しております。