【 フラり対談 】株式会社ヨックモックホールディングス
このコーナーでは、弊社会長の小林がフラりと「トップランナー」であり「変革者」であり「インフルエンサー」でもあるゲストの方々を訪問させていただき、目指すことや苦労話等を気負わないトークで展開しています。是非ご一読ください。
愛される洋菓子ブランドの力で
人と人との喜びのつながりを築く
1969年に設立し、国内の高級洋菓子ブランドとして圧倒的な知名度と人気を誇るヨックモック。百貨店におけるギフトニーズに着目し、当時は高価だったバターをふんだんに使った商品「シガール®」のヒットを機に、成長を続けてきました。同社のこれまでの歴史やブランドの強み、そして見えている課題と今後のブランディング戦略を、ヨックモックホールディングスの常務取締役である大内和夫氏にリードプラス取締役会長の小林治郎が伺いました。
楽しい記憶との結びつきが圧倒的なブランド力を形づくる
リードプラス会長 小林治郎(以下、小林): 本日はお忙しい中、ありがとうございます。ヨックモックといえば、まだ日本で洋菓子が高嶺の花だった時代からの長い歴史をお持ちです。
ヨックモックホールディングス 常務取締役 大内 和夫 氏(以下、大内氏):チョコレートメーカーを営んでいた創業者が、1969年にヨックモックを設立しました。来年(2024年)には設立55周年を迎えます。
小林: 「日本の高級洋菓子ブランドと言えば?」と尋ねられたら、ほとんどの人が「ヨックモック」と答えるほどに、唯一無二のブランドを築かれました。どのようにブランドを育ててこられたのでしょうか。
株式会社ヨックモックホールディングス
常務取締役
大内 和夫 氏
大内氏: ブランドを築くうえでは、贈答用商品(ギフト商材)として百貨店をメインの販売チャネルに選んだことが大きかったと思います。当時は今よりもお中元・お歳暮の文化が活発でしたので、そうした時代にマッチした商品として知られ、売上げを拡大させた形です。
小林: 1969年の設立当初は、百貨店に販路を築くのは大変だったと想像しますが。
大内氏: ご想像のとおりです。設立からしばらくは百貨店に商談に行っても話を聞いてもらえないことが多々あったようです。そんな中で転機となった商品が「シガール®」です。洋菓子として独特な形と、バターをふんだんに使っている高品質が評価されて百貨店での取り扱いが増えていきました。
大内氏: 当社の最大の強みは、このブランドが人の「楽しい記憶」「幸せを感じた記憶」と結び付いていることです。おそらく多くの方が、当社のお菓子がお中元・お歳暮のシーズンに家にあった、あるいは、親戚の方が持ってきてくれたという経験をお持ちのはずです。また、ヨックモックという社名は知らなくとも、シガール®を見たら楽しさ、嬉しさ、あるいは幸せを感じた瞬間を思い出す方が多いのではないでしょうか。ギフトのニーズに特化したことで、そうした思い出と結び付いたブランドが確立でき、それが強みになったということです。
一層の認知度アップに向けた課題とは
小林: 「ヨックモックのブランドが楽しい記憶と結びついている」というお話を聞き、なぜ、私たちがヨックモックのファンであり続けるかの謎が解けたような気がします。私の知る限り、一定の年齢以上の人は誰もがヨックモックのファンです。その背景には、ギフトをもらったときの幸せの記憶があるわけですね。
大内氏: 一方で、年代や地域によって当社ブランドの認知度に差があります。例えば、関東圏では90%以上の認知度がありますが、関西や中国・四国ですと認知度が60~70%に下がります。加えて、若年層における認知度もそれほど高くありません。
小林: ブランド認知度の地域間・世代間の格差には、社会の風習や小売市場の変化が大きく影響しているのでしょうか。
大内氏: おっしゃるとおりです。弊社のメインチャネルである百貨店は全国的に減少傾向にあります。また、お中元・お歳暮を贈ろうとする人も少なくなるなど、ギフトの文化も変容しています。おそらく、40代以上の方であれば、お中元・お歳暮のシーズンに家にお菓子が届くことが当たり前のようにあったと思います。ところが昨今ではそうしたコミュニケーションが減っています。結果として、生活の中にヨックモックが登場する頻度が減り始めました。その状況を打開することは当社にとって大きな課題の1つといえます。
百貨店を中心に、2013年からECチャネルも拡大
小林: ブランド認知度の地域間・世代間の格差をなくすという取り組みはチャネル戦略と密接にリンクしているように思えます。先ほど、設立の頃よりメインの販売チャネルは百貨店だったと伺いましたが、今日でもそれに変化はないとの理解でよろしいでしょうか。
大内氏: ええ。現在も売上げの半分以上を百貨店での販売が占めています。
小林: 一方で、弊社がマーケティングをお手伝いしているECでの販売にも力を注いでこられたと認識していますが。
大内氏: ECの展開は2013年ごろから少しずつ始めました。同業の中では後発だったこともあり、当初はスピード感をもって売上げを拡大させることとブランド認知を広げることにこだわりました。具体的には、自社サイトでの販売に加えて、Amazonや楽天市場などへも出店しながら「面」を押し広げ、EC市場でのシェア拡大やブランドの認知度を高める施策を積極的に打ったわけです。
結果として、ハイペースでECでの売上げを拡大させることができました。現在はECでの売上げが相応の規模にまで成長したので、これからは販路の絞り込みも含めて、いかにECでの商品の売り方を洗練させられるかが課題となっています。
小林: ECでの販売に加えて、貴社の認知度アップに向けた販売チャネル施策は何か講じられていますか。
大内氏: 最近打った施策の1つは、当社商品の自動販売機(以下、自販機)を「ラゾーナ川崎」(JR川崎駅に直結する商業地区)にある直営店舗近くに設置したことです。自販機にはギフト用の大きなサイズの商品は入らないので、代わりにカジュアルな商品を買えるようにしてあります。
いずれにせよ、自販機なら実店舗の営業時間外でも自由に買えますし、通勤経路に自販機を設置すれば、生活者とのこれまでにない接点が創出できます。そんな時間と空間のパラダイムシフトによって、どんな成果が生まれるかを検証している最中です。現時点(2023年9月時点)では、まだ1台の設置にとどまりますが、今後数カ月をかけて設置台数を増やしていく計画です。
小林: ラゾーナ川崎は比較的若年層が訪れることが多く、近隣にはマンションもたくさんあり、若いファミリー層も数多く暮らしています。自販機は、従来とは異なるターゲットにアピールできそうですね。
大内氏: そう期待しています。また、2022年には東京駅一番街に出店していた店舗を、情報発信も兼ねた「Sweets Station」をコンセプトにリニューアルしました。加えて、東京駅は、日本各地はもとより、訪日旅行客も数多く集まります。そこで、これまでのヨックモックとは一味違う商品の売り方を考え、限定商品も置いています。最近では、東京・青山のブランドであるからこそ東京の産物にフォーカスを当て、八丈島の名物である「フルーツレモン」を使った商品を、農場の方と共同で開発し、販売しました。
人と人の幸せをつなぎ持続可能な社会を目指す
小林: ブランド認知の一層の拡大に向けてさまざまな施策を打っておられるようですが、当社としてやはり気になるのが、マーケティングをお手伝いしているECの今後の展開やビジョンです。先ほどECでの売り方をより洗練させるとのお話もいただきましたが。
大内氏: ECに関しては、今後は単純に売上げを伸ばすだけでなく、店舗への送客にも注力する予定です。
小林: そうする理由は何なのでしょうか。
大内氏:当社は「人と人とのつながりをデザインする」ことをミッションとして掲げています。このミッションには、単に「モノを売る」だけでなく、商品の販売を通じて人と人とをつなげる機会をより多く創出したいという想いが込められています。
例えば、当社の実店舗を訪れたお客さまは、スタッフから丁寧な説明を受けて満足し、商品を購入されます。この体験は、ECではなかなか味わえません。また、そうして購入された商品をプレゼントされた方も、商品を贈った方の想いを感じながら、商品を味わい、喜びや幸せを感じていただけるはずです。もちろん、ECや自動販売機で売上げやブランド認知度を伸ばすことも重要です。
ただ、当社としては、実店舗を起点にした人と人とのつながりをより大切にしたいですし、オンライン上でも実店舗でしか生み出せない価値を積極的に伝えていきたいと考えています。
小林:確かに、貴社の実店舗で働く販売員の方は商品知識も豊富ですし、接客も丁寧でこちらのニーズに的確にこたえてくれます。その根底には、人と人とのつながりを大切にする貴社のお考えがあったのですね。
加えて、貴社では商品の梱包にもこだわっておられますね。代表的なのが美しくデザインされた缶のパッケージです。コストを考えれば、紙箱でも良いはずですが、そこをあえて缶のパッケージにしておられます。
大内氏: 当社の商品を記憶に残す要素として、凝ったデザインの缶が果たす役割は非常に大きいと見ています。
小林: そうなんです。缶が美しいので、食べたのちも捨てられないんです。小物入れに使ったりして。そうなると貴社のことを忘れようにも、忘れられなくなります。
大内氏: それが狙いなのですよ(笑い)
小林: 最後に、今後のブランディング戦略の方向性について確認したいのですが。
大内氏: 繰り返すようですが、当社は人と人とのつながりを生み出すブランドであり続けたいと願っています。また、人と人との良好なつながりがなければ、持続可能な社会も訪れないでしょう。
ですので、当社としては、良質な商品とサービスを通じて、より多くの人と人との良好な関係を維持、強化し、持続可能な社会づくりに貢献したいと願っています。
小林: なるほど、商品の売上げを単に伸ばすことよりも、優れた商品とサービスによって人と人との良好なつながりを生み出すことに力を注ぐということですね。またそれが、持続可能な社会づくりへの貢献へとつながると。私は職業柄、とにかく商品の売上げを伸ばすこと、お店やWebサイトにより多くの人を集めることばかりに気をとられがちです。その中で、いまの大内さんのお話には強く感銘を受けましたし、貴社のブランド、商品がなぜ人から愛されるかの理由も一層深く理解できたように感じます。これからは、貴社の商品、ないしはギフトは人と人との良好な関係を築くために存在するという視点を忘れることなく、貴社によるデジタルマーケティングを今後もお手伝いさせていただければと思います。本日はありがとうございました。
※ 本ページの内容は2023年9月時点での情報をもとに制作しております。