プル型営業とプッシュ型営業の違いを正しく理解する
“プル型営業” “プッシュ型営業”
よく耳にするこの2つですが、“インバウンド”、“アウトバウンド”と言い換えることもできます。マーケティングの現場においては後者の2つの方が馴染みのある言い方ですね。
皆さんは、これらの言葉の違いをどのように解釈していますか?
「受けの営業」「攻めの営業」や「戦略的営業」「属人的営業」などなど、解釈の仕方は人により様々かと思います。
しかし果たしてその解釈は正しいのか?普段何気なく認識していても、ふと疑問を投げかけてみると「自分の解釈は間違っているのではないか?」と少し不安になりますね。
今回は、様々な解釈がされているプル型営業とプッシュ型営業について解説していきたいと思います。また、プル型営業を展開する上で大切な考え方についても紹介していきます。
2つの違いをきちんと理解すれば、今後の営業活動やマーケティングへ大きく役立てることができるので、是非参考にしてください。
プル型営業とプッシュ型営業
まずプル型営業とプッシュ型営業を簡単に定義すると、「顧客主体の営業」と「企業主体の営業」と捉えることができます。
プル型営業=顧客主体の営業
顧客主体の営業とは、サービス・製品に対し顧客が自発的に興味を持ち行動を起こさせるよう喚起する営業スタイルです。今日で言うところのインバウンドマーケティングが該当しますね。
まずは自社サービス・製品の認知拡大から始まります。ここで混同してはいけないのが、テレビCMや新聞広告といった媒体を利用した認知拡大はプル型営業ではないということです。
「サービス・製品の認知拡大をするのなら同じじゃない?」と思われるかもしれませんが、プル型営業ではいかなる場面においても「顧客主体」というのが重要になります。つまり、顧客がサービス、製品を認知することにおいても顧客が自発的に起こした行動でなければならないのです。
その点テレビCMや新聞広告などはこちらが一方的に情報を発信しているので、プル型営業とは言えませんね。ちなみにプル型営業におけるサービス、製品の認知拡大はリスティング広告や自社Webサイト、ソーシャルメディアで行うのが一般的です。
認知拡大後は様々な展開をして、顧客が自発的にサービス、製品へ興味を持ちクロージングへ繋げていけるよう誘導します。
この誘導プロセスは、インバウンドマーケティングで言うところのナーチャリングプロセスに似ています。
プッシュ型営業=企業主体の営業
企業主体の営業とは顧客主体に対し逆のスタイルと言えば分かりやすいですね。顧客自らに行動を起こさせるのではなく、こちらから積極的に情報を発信したり営業をかけることで顧客との関係を築き成約へと繋げていきます。
「用がなくても顧客の所へ足を運ぶ」や「電話をかけまくりアポイントを取って訪問する」といった、日本古来の営業スタイルがプッシュ型営業に該当します。
しかし、最近ではこういった営業マンの姿を見ることも少なくなりましたね。もちろん「顧客の所へ足を運ぶ」といった営業スタイルは未だ健在ですが、既に取引のある既存顧客との関係維持のために行われることがほとんどです。
ではなぜプッシュ型営業が淘汰されていき、プル型営業が主流となっているのか?
プル型営業が求められている理由
プル型営業が現代ビジネスの主流となっているのは、以下のような理由が挙げられます。
- インターネットやデバイスの普及により、顧客の購買プロセスが多様化した
- セールスサイクルの短縮化が大きな課題となった
2000年頃から一般家庭にも本格的に普及し始めたインターネットのおかげで、少しの労力で様々な情報に触れることができるようになりました。また、PC以外にスマホやタブレットといったデバイスの普及により、ネットワークへ接続するシーンが増加しましたね。こういった情報社会の変化は、BtoB・BtoCを問わず顧客の購買プロセスにも影響が出ています。
一つは、サービス、製品を利用する際に営業を直接介さずともWebサイト上で申し込みや決済までをワンストップで行えるようになり、購買プロセスが簡素化されました。もともと営業とのコミュニケーションが煩わしいと感じている決裁者も多かったことから、交購買プロセスが徐々にオンライン上へ移行していったのです。
そしてもう一つは、タッチポイントの多様化です。従来企業と顧客が触れるポイントといえば、テレビCMや新聞広告など企業が一方的に発信する情報か営業かに限られていました。しかしそれが現在ではどうでしょう?ホームページ、ブログ、リスティング広告、ソーシャルメディア、スマートフォンアプリなどなど、以前に比べてタッチポイントが数倍以上に増加しています。
こうした背景から顧客の購買プロセスは多様化し、プッシュ型営業では適切なポイントでセールスをかけることが難しくなったのです。
また、プル型営業が求められる理由としてセールスサイクルの短縮化も大きく関わっています。調査によると企業の購買プロセスは2007年から2012年までの5年間で22%長期化しており、BtoB企業にとっては利益を出しづらくなっているという現状があります。
プル型営業であれば、もともと自社サービス・製品に対するニーズを持っている顧客を対象にビジネスを展開できるので、クロージングまでのサイクルがプッシュ型営業と比べて短いのです。
さらに細部まで見れば人材リソースの問題なども関与してきますが、以上の2点が大きな理由となっています。
プル型営業とプッシュ型営業どっちが大変?
「うちの会社は未だにプッシュ型営業だから辛いよ…」といった声を聞くことがありますが、2つの営業スタイルのうち本当に大変なのはどちらなのか。実は「プル型営業だから楽!」とは一概に言えないのが現実です。
まずプッシュ型営業では、アポイントを取るまでに精神的負担が大きいという特徴があります。数百件に連絡して数件のアポイントが取れるかがどうかという世界なので、その厳しさは容易に想像できますね。しかしアポイントが取れた後のことを考えれば、提案の自由度というメリットが大きく働くのも特徴の一つです。
というのも、プッシュ型営業の見込み客は「なんとなくいいな」と明確なビジョンがない場合がほとんどです。つまりニーズが顕在化していないため、こちらの提案次第で利益を100にも200にもすることができます。また、「1から戦略を作る」といった楽しさや、取引が未だ発生していないことで思い切りのある営業をかけられるのもメリットの一つです。
対してプル型営業ですが、「アポイントを取る」という行動はありませんが顧客は既に顕在化したニーズを持っています。「予算はいくらで制作期間はこれくらい」などBANT(※1)が既に決まっていて、その他の要件事項もガチガチに固められている場合も珍しくありません。提案の自由度がないのはもちろん、顧客が認識している課題解決が間違った方向に進んでいる場合はこちから軌道修正する必要性もあります。もっと言えばコンペがあったり利益の最大化が難しかったりと、プル型営業は実は商談が難しい営業スタイルなんですね。
こうしたことを踏まえてどちらが大変か?を考えると、実はプル型営業だったりします。この理解がないことからプル型営業へシフトして失敗する企業が多く存在するので、十分に注意してください。
※1:BANTとは、「Budget:予算」「Authority:決裁権」「Needs:必要性」「Timeframe:導入時期」の頭文字を取ったもの。
プル型営業で大切な考え方
プル型営業を展開する上で大切なのは、プッシュ型営業とのバランスをしっかりと取ることです。実は完全なプル型営業で事業展開できている企業は稀であり、多くの企業がプル型営業とプッシュ型営業を両立させています。
しかしこれはプル型営業へとシフトし切れていないからではなく、2つの営業スタイルのバランスを上手に取っているからなのです。
ここまでの解説でプル型営業とプッシュ型営業を対比して考える方も少なくないでしょうが、2つの営業スタイルの関係性として最適なのは「対比」ではなく「補完」です。つまりどちらか一方の営業方法のみを展開するのではなく、ケースバイケースで双方を補完し合うというのがベストな関係性となります。
「プッシュ型営業は古い」や「プル型営業の方がコストがかからない」といった考えから営業スタイルを完全にシフトしようとするケースがありますが、実は危険な改革だったりするのです。
また、プル型営業では組織的な体制が欠かせません。従来の属人化した営業スタイルを排除し、部署全体で情報共有をして「営業対顧客」ではなく「部署対顧客」の考えで営業展開するのことが重要です。このためには情報共有可能あプラットフォームを導入したり、フィードバックが常に打ちえげられる環境を作る必要があるでしょう。
まとめ
プル型営業とプッシュ型営業の違い、今回の解説で明確に理解して頂けたのであれば幸いです。
皆さんの企業では現在どちらのスタイルで営業活動をしていますか?または2つのスタイルが共存している状態でしょうか?いずれにせよ、2つの営業スタイルの違いをきちんと理解していることは、今後の営業活動に影響を及ぼすのではないかと思います。
また、近年インバウンドマーケティングが流行しているように、プル型営業へのシフトを考えている企業が多いと思います。念を押しますが重要なのは「対比」ではなく「補完」です。「共存」と言ってもいいですね。完全なるプル型営業へのシフトを目指し失敗する企業は非常に多いので十分に注意しましょう。
そもそもいきなり営業スタイルを一新するのは、考えてもみれば危険な行為です。もしも完全なプル型営業へとシフトしたいのであれば、徐々にシフトしていくのがセオリーとなります。
今回解説した内容を念頭に、今後の営業スタイルについて考えてみて頂ければと思います。また、プル型のマーケティングスタイルであるインバウンドマーケティングをわかりやすくまとめたEブックをご用意しました。以下よりダウンロードして是非ご覧ください。