Cookieに関する大きな動きとApple SafariにおけるITPについて

デジタルマーケティングは一人ひとりに最適な体験をしてもらうことが大切です。

多くの企業がWeb上での「おもてなし」つまりはパーソナライゼーションへの取り組みを強化しています。具体的にはコンテンツの出し分けや最適なバナーの表示、広告表示、メールやプッシュ通知といったことで心地よい環境を実現していることでしょう。

そのために欠かせない技術がCookie(クッキー)です。

会員情報の識別や匿名ユーザーなどを識別するものとして、Cookieは欠かせない技術です。そしてこれはアクセス解析や広告、マーケティングオートメーションや接客ツールなどで幅広く利用されています。

しかし、その一方でこのCookieに対して、逆風も吹いています。この記事ではとりわけ強い風となっているAppleのITP(Intelligent Tracking Prevention)、特に2019年春から実装されるITP2.1について解説します。

ITP2.1の影響でツールなどが対応していないと以下のような現象が起きますので、「あれ?おかしい」と思ったらご注意ください。

  • 一週間を超えたら、リマーケティング広告が効かない
  • クリックから日にちが経過したコンバージョンデータが取得されない
  • アフィリエイトの成果がわからなくなる
  • ユニークユーザーの数が上振れする
  • Cookieをベースにしたデータが正しく取得できなくなる

Cookieについて

まずこの記事の前提知識となる、Cookieについて解説していきましょう。古くからの技術ですしこの知識は十分に心得ている、という方はこの章は飛ばしてください。

Cookieは「ユーザーがサイトを訪れた際の行動記録」です。記録はブラウザにたまり、形態としてはテキスト情報となります。

ブラウザに記録されたCookieは再びWebサーバーと通信をする際に、サーバー側の情報と紐づきます。これによりそのユーザーが過去にサイトを訪れたことがあるか、どういったコンテンツを閲覧していたのかがわかります。

この仕組みによりアクセス解析ではリピーターになりますし、ユーザーが過去に賃貸マンションを探していたら、おすすめ情報として賃貸マンション情報を自動で表示させたりします。

Webサイトに訪問しない場合でも、Cookieを使った施策は実行されます。たとえばそのユーザーが過去に訪問したWebサイトに関する広告が、当たり前のようにニュースサイトなどに表示されます。これが実現できるのも、Cookieでそのユーザーの記録が取られているからです。

Cookieには1st Party Cookie(ファーストパーティー・クッキー)3rd Party Cookie(サードパーティー・クッキー)の二つの種類があります。

1st Party Cookieは自サイトのドメインが発行もとになります。3rd Party Cookieは他サイトです。自身のWebサイトが発行するのが1st Party Cookie、広告や外部ツールが発行しているのが3rd Party Cookieと考えておくといいでしょう。

広告やコンテンツを一律に見せられるのではなく、パーソナライズされた最適なものが表示されるので有用な技術ではあるものの、精度が高まりすぎたこと、それを利用した広告や接客、コンテンツの出し分けツールが膨大になったことであらゆる場所で自分の情報が筒抜けになっているみたいで怖い、不快といった声も聞かれるようになってきました。

デジタルマーケティングでの利用拡大とともに、Cookieのこうした点が問題として捉えられ始めたのが最近の流れです。

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ITP(Intelligent Tracking Prevention) とは?

それではAppleがCookieへの対応として進める技術、ITPについて紹介していきます。

Cookieによる情報収集が気味悪い、不快という声を受け大きなアクションを取っているのがAppleです。ITP(Intelligent Tracking Prevention)は、プライバシー保護を目的としたAppleの技術です。

ITP(Intelligent Tracking Prevention)は、2019年の春、より強化されたITP2.1がリリースされます。

ITPの歴史

まずは2017年にITP1.0が実装されました。

ITPの細かな仕様はいくつかありますが、1st Party Cookieと3rd Party Cookieに絞ってみるとITP1.0では3rd Party Cookieが24時間を超えると無効化される、というのが大きなポイントでした。

広告やアクセス解析ツールは3rd Party Cookieを発行しユーザーを識別していましたので、対象となるiOSとMacに搭載されたブラウザのSafariでは、これらの機能に影響が出ることになったというわけです。

2018年にはITP1.0を進化させたITP2.0が実装されました。

これにより3rd Party Cookieは、24時間を待たずに即時無効化されるようになりました。1st Party Cookieはユーザーが許諾する、30日間以内にユーザーがアクションをとるといった条件を満たせば破棄されないという形になりました。

ITP2.0では他にも、ユーザー行動を取得するリダイレクトによるデータの破棄という機能も加わりました。大まかな言い方をすると自サイト以外が発行するCookieは使えなくなった、自サイトが発行するCookieや情報収集についても制限が加えられた形です。

このようにITPによるプライバシー保護は、1年ごとに強化されてきました。

ITPの登場によりユーザーを追えなくなったことで大打撃を受けた広告ツールもありました。しかし多くの広告メディア、ツール提供会社は対策をしてこれまでのリマーケティング広告やアクセス解析の機能を維持できるようにしました。

具体的には3rd Party Cookieではなく1st Party CookieとしてCookieを発行する、という方法が取られました。ここ1年くらいの間にタグの仕様や設定が変わったツールの多くは、ITPへの対応といえます。

ITP2.1の動き

さて2019年2月に発表され提供が開始され始めたSafari 12.1からの実装となったのがITP2.1です。これは広告メディア、ツール提供会社の対応が抜け穴をくぐっているように思われ、さらに強力な対策技術へと移行したといわれています。

ITP2.1は、1st Party Cookieの有効期限を最大7日までにするというところが大きなポイントです。

つまり1st Party Cookieが実質無効化されてしまいます。広告メディア、ツール提供会社はまた新たな対応を余儀なくされています。もちろんデジタルマーケティング、Web担当者にとっても頭を抱えてしまう問題です。

ITP 2.1による影響

広告、アクセス解析で起こりうる問題をいくつか書き出してみましょう。

  • 一週間を超えたら、リマーケティング広告は効かない
  • クリックから日にちが経過したコンバージョンデータが取得されない
  • アフィリエイトの成果がわからなくなる
  • ユニークユーザーの数が上振れする
  • Cookieをベースにしたデータが正しく取得できなくなる

ITPはiPhoneとMac、それに搭載されたSafariが対象です。一部の環境とはいえ、iPhoneは日本のスマホでかなりのシェアを持っています。企業やサービスによってはAndroidと比較して5対5という場合もありますが、6~7割のスマホからのアクセスがiPhoneというサイトも少なくありません。

このようにiPhoneのシェアを考えると、ITP2.1の影響は甚大です。

加えて昨今はマーケティングオートメーションやレコメンド、接客ツールなどCookieを使った最適化を実現するツールが多く導入されています。デジタルマーケティングに力を入れている企業やサービスでiPhoneからのアクセスが多い所ほど影響は大きいという状態が考えられます。

ITP 2.1へのさまざまな対応状況

1st Party Cookie が無効化されるのは、JavaScriptを利用したCookieの取得に対してです。そのため他の方法で1st Party Cookieを取るという対策が考えられます。しかしこれは一部のツールにのみ使えるものですし、エンジニアによる改修も必要です。基本的には広告メディア、ツール提供会社が対応するのがベストです。

方法の一つにlocalStorageを利用するというものがあります。localStorageにはCookieが保存されるからです。しかしlocalStorageのデータも、いずれ消されるようになるというアナウンスがなされています。そのためこうした方法は暫定的、きちんと対応するためには別の方法を模索する必要があります。

発表から公開までの期間が短かったということもあり、まだ対策が発表されているツール類はほとんどありません。私も一部のツールベンダーに対してITP2.1の対応について最近たずねていますが「社内で調査、対応中です」という回答がほとんどです。ネット上に現在出ている情報も、Cookieの取得方法を変えどうやれば影響を回避、最小限に抑えることができるかという方が多いようです。

ITP1.0、2.0の対応でも時間がかかるケースがありました。またタグの入れ替えや再設定をしないといけないというのもありました。今度のITP2.1はより強化された仕組みなので、これまでより時間がかかることも予想されます。

まとめ

エンジニアに聞いたところ、ITP2.1の対応をするにはかなりの大きな改修が必要になるということです。localStorageを使うという対策であれば可能なものの、先ほど書いたように暫定的なものになるため、根本的な対応を考えると一筋縄ではいかないようです。

iOS12.1の提供が開始され始めたため各ツール、特に知名度が高いツールはITP2.1への対応がそろそろ出始めてくるというのが予測です。

しかし大きな改修となるのでタグの仕様や設定の変更をするなど、導入者側が多くの対応をしなければならないかもしれません。あるいは他のツールを併用したり、費用そのものが追加になることも考えられます。

デジタルマーケティングの大きな変化といえば、過去にはSEOにおいて「アクセス解析で、自然検索のキーワードが取れなくなる」というのがありました。あの時もこれからのSEOにどう取り組めばいいのかという話が多く出ましたが、それ以降も何とかやりくりをし、キーワードが取れないなら別の方法でという形で、SEOへの対策もつづいています。

Cookieについては2018年の「GDPR(EU一般データ保護規則:General Data Protection Regulation)」につづく大きな逆風ですが、シェアが高いiPhoneでの技術的な変更なので、日本国内ではより影響が出るかもしれません。

広告やアクセス解析ツール、マーケティングオートメーションなどの対応は各提供会社の発表を待ちたいところですが、規模が大きい企業はCookieを使って独自の施策や分析をしていることもあるでしょう。その場合はIT、エンジニア部門と早めに連携して、影響範囲の洗い出しと対応方法の検討をすることをおすすめします。

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