BtoBにおけるSEOは有効なのか? 検索クエリとSERPsから検証してみます
マーケティングオートメーションの登場やリードナーチャリング、あるいはインサイドセールスといった手法により、BtoBでもマーケティングは必要という意識が高まりました。
しかし「デジタルマーケティングがBtoBにどれくらい効果的なのか」については、依然として見えにくいという評価があるのも事実。
デジタルマーケティングの集客手法の一つに、SEOがあります。これはインバウンドマーケティングでも中心となる施策です。
この記事では、実際にSEOがBtoBのデジタルマーケティングに効果的なのか?ということを、検索クエリとSERPsの二つに焦点をあてて検証してみたいと思います。
なおBtoBの中でもデジタルマーケティングと親和性が高いことがわかっていて、すでに多くの事例があるITやクラウド関係の業種業界は、この記事では対象外としています。
前提としてSEOの知識
検証していく前に、この記事で前提となるSEOの知識を押さえておきたいと思います。
まずは基本的なことから。Goole検索で入力するキーワードは、「検索クエリ」と呼びます。そのためこの記事では、検索クエリという表現に統一します。
SERPs(サープス)とは、検索結果画面です。一般的にSEOは、このページの上位に自社のページを表示するように対策していきます。
Googleは複雑なアルゴリズムで検索順位を決定していますが、「検索意図」に応じて出すページの優先順位を変えています。検索意図は大きく四つに分かれます
- KNOWクエリ(知りたい)
- GOクエリ(行きたい)
- DOクエリ(おこないたい)
- BUYクエリ(買いたい)
これらの検索意図は、「検索インテント」と呼ばれます。
ユーザーが検索をおこなう際はこの四つのニーズに分類され、Googleはそれに合わせた検索結果を返します。たとえば「Tシャツ」と検索すると、検索結果の上位には通販ページがずらりと並びます。これは「Tシャツという検索をおこなう場合は、購入したいと考えている」とGoogleが判断するからです。つまりBUYクエリのニーズです。
検索インテントの基準となる検索クエリも、次のように三つに分類されます。
- ナビゲーショナルクエリ(案内型)
- インフォメーショナルクエリ(情報型)
- トランザクショナルクエリ(取引型)
「ナビゲーショナルクエリ」が何を意味するか、名称だけだと少しわかりにくいかもしれません。これは明確にそのサイトを目指している、といった場合です。つまり「トヨタ」「ヴェルファイア」など、ブランドや商品名の検索です。
「インフォメーショナルクエリ」は情報収集、「トランザクショナルクエリ」は何らかの取引を目的にした検索で用いられます。トランザクショナルクエリの方が一般的なコンバージョンに近いですが、インバウンドマーケティングはインフォメーショナルクエリからナーチャリングしていき、リードへとつなげていきます。そのためインバウンドマーケティング手法に対するSEOでは、インフォメーショナルクエリは非常に重要です。
次からはこの記事のメインテーマである、検証に入っていきましょう。
事業
多くの企業が過渡期を迎えている現在、「M&A」は注目度が高いキーワードです。実際に月間の検索数は、次のようになっています。
- M&A 49,500
- M&Aとは 27,100
「M&A」の検索数が49,500、これはかなり多い数字です。そしてこの語が含まれた検索クエリで二番目に多いのが「M&Aとは」です。言葉はよく聞くものの、それが何なのかよくわからないといったユーザーの心理が見えます。
「M&A」で実際に検索してみると、次のような検索順位となります。
上位の多くが「M&Aとは」に対する回答です。つまりはインフォメーショナルクエリであり、KNOWクエリのニーズを満たしていることがわかります。
こうした動きは、インバウンドマーケティングの代表的な接点となります。つまり基本的な事柄で最初の接点をつくり、そこからナーチャリングしていく形です。SEOでまずは集客、という意味では効果的といえるでしょう。
「M&A 仲介会社」というクエリで検索すると、具体的な仲介会社に関する情報が出てきます。直接的なコンバージョンに近くなっていることは明白ですが、月間の検索数は約260件しかありません。この数だと検索順位の1位であっても月間流入は50ほど、コンバージョンは1件にも満たないと予測されます。
会社設立
「会社設立」を軸にした検索クエリとそれぞれのボリュームは、次の通りです。
- 会社設立 22,200
- 会社設立 費用 3,600
- 会社設立 流れ 1,900
- 会社設立 自分で 1,000
- 会社設立 個人事業主 1,000
「会社設立」単ワードでの検索数が飛びぬけて多いものの、組み合わせで1,000を超えるクエリが複数あるのにも注目です。
「会社設立」での検索結果は次のようになり、
費用や流れ、個人事業など検索ボリュームが多い他のクエリの内容も含まれているのが、見出しや説明文からわかります。単ワードまたは検索ボリュームがある複合語について、SEOで最初に接点をつくり、そこからリードへと結びつけていくことで効果が出そうです。
保険
「保険」という検索クエリは、幅広いニーズが含まれていると考えられます。病気、家、車などさまざまな対象に関するもの。それに加えて法人向けの保険があります。
実際に「保険」単ワードで検索してみると、49,500とかなり多い検索数があります。検索結果は、次のようになります。
幅広い保険情報を扱うランキングサイトや比較サイトが上位に来ます。「保険」というクエリに、「法人」と加えてみましょう。
- 法人保険 1,300
- 法人保険 節税 480
- 法人保険 メリット 260
- 法人保険 損金 ルール 210
検索ボリュームは、かなり小さなものになります。「法人保険」で実際に検索してみましょう。
上位には法人保険のサービスそのものがきますが、続けて法人保険に関するメリット、デメリットといったKNOWクエリのニーズが見えます。
「法人保険」と検索している場合には、すでに基本的なことは知っていて実際のサービスを探しているケースがあれば、法人保険がどういったものなのか情報を探っている段階というケースもあるようです。
Googleの検索アルゴリズムが進化しているとはいえ、検索者一人ひとりのニーズをくみ取ることは不可能です。そのため一つの検索クエリに対して、性格の異なる回答を複数返すケースがあります。またどういった検索結果が最適かを模索しているため、検索時期により順位が入れ替わることが多くあります。
OEM
OEMは製造者みずからのブランドをつけることなく、他社から発注された商品を製造すること。そうした仕事の性質のためか、このジャンルは取引先を変える(変えた)という話を耳にする機会がわりとあります。
単ワードでは、幅広く対象になる言葉です。「OEM」という単ワードの検索は49,500と膨大な数があり、それに次ぐのが「OEMとは」で27,100、その後ボリュームはかなり減りますが「OEM 意味」という組み合わせの4,400回で、その意味を探すニーズが高いことがわかります。OEMと他の語句の組み合わせでビジネスニーズに近くなると推察されるのは、次のようなものです。
- OEM メーカー 720
- OEM 契約 720
- OEM 化粧品 720
- OEM 自動車 720
- OEM アパレル 480
「OEM メーカー」で実際に検索すると、次のように」なります。
3番目にOEMの製造会社一覧が出るものの、この組み合わせであってもKNOWクエリ寄りの結果になるのがわかります。なお一番最初にOEMに関する簡単な解説が表示されますが、これを強調スニペットと呼びます。
強調スニペットは一番はじめに表示されるので価値はあるのですが、検索結果に直接答えが表示されWebページの閲覧にはつながらないケースも多く、ビジネス的な貢献度とイコールにはなりません。
次に、「OEM 化粧品」と業界を限定する検索クエリを使ってみます。
多くがトランザクショナルクエリで解釈されているのがわかります。またインフォメーショナルクエリとしての結果も返されており、「OEMに関心を持っている企業」「OEMの仕事に興味を持つ人」といったふうに、異なる対象へ向けた記事となっています。
プラント(設備)
最後に検証するのは、これまでと比べかなり規模の大きなものです。プラントとは工場、生産設備を指しますが、固有名詞として使われているケースもあり、そのままだとまったく違う意味のものが混じります。そのため「プラント 設計」という組み合わせにすると、月間の検索数は720件とかなり少ないボリュームになります。
これで検索すると、「プラント設計とは何か?」という知りたいニーズが多くなります。
「プラント メーカー」とすればプラントに関する企業リストなどが上位に出ますが、検索ボリュームはさらに少なく480です。
このように実際の規模に反してプラント設備関連での検索は、検索エンジンではかなりボリュームが低いジャンルといえます。
全体の考察
ここまでの検証に対して、ポイントをまとめてみましょう。
- BtoB関連のクエリでも、検索ボリュームは月間に数万という大きな数のものがある。
- インフォメーショナルクエリとして、知りたいというニーズが高い場合も多い。
- 複数語句を組み合わせて絞り込んだクエリは、トランザクショナルクエリになることも多い。しかし検索ボリュームはかなり下がる。
- ジャンルによっては、検索ボリュームがかなり少ないものがある。実際のビジネス規模と反比例する場合もあり。
ここから導き出されるひとつの答えが、「情報を与えるという手法のマーケティングは、BtoBにおいても価値がある」ということです。しかし一時的な答えを与えるだけでは、メリットはもたらしません。まずは検索をきっかけにしてアクセスしてもらい、そこからナーチャリングをしてリードへとつなげていくことが必要です。
デジタルマーケティングがうまくいかないケースは、知識の提供だけにとどまっているからといえます。これはコンテンツSEOとして取り組んでしまっているからで、本質的な「コンテンツマーケティング」、あるいは「インバウンドマーケティング」のように実際的な成果に結びつけることを目指すべきです。
また最後に取り上げた「プラント(設備)」のような建築、土木分野など、実際のビジネス規模とインターネット上の検索ボリュームとが合致しないジャンルがあります。これは業界特性やビジネスの規模的に、ネットで新規の取引先を探すというのにそぐわないといった理由が考えられます。
ただし人材募集のために「プラントとは」というインフォメーショナルクエリをもとにしたコンテンツを作っていくことは、実際的な効果をもたらすでしょう。このように「ターゲットの見極め」をおこない「実際のキーワードを定める」、こうした戦略~戦術構築はBtoBマーケティングの成否を大きく左右します。
まずは「自分たちが求めるものは何か」を明確にして、それに対してSEOが有効かどうかを見極めていくことが大切です。